見えない引力
[03]
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 引っ越しを終えて荷物の整理をした。荷物の量はそんなに多いわけじゃないのに時間だけはかかる。整理し終わって隣人に挨拶しに行くと、男の美人さんが出てきた。


「こんばんは」

「こんばんは」

「隣に引っ越してきた五十嵐涼太です、これからよろしくお願いします」

「……桐谷奨です。よろしく」

「菓子折りです、どうぞ」


 菓子折りを渡して世間話を少々。と言っても、この辺りのこと教えてもらったくらいだ。案外話すんんだな、と思ったのは秘密にしておこう。


「上がってく?」


 言われたら上がるしかないでしょ。「お邪魔します」俺はすでにそれを言っていた。家に上がるとリビングではマグカップを持つ女の子が居た。すっげーかわいくて、奨と少し似てる女の子で、長い髪が結ばないで垂らされてて……とにかくかわいいしか言えない。


「恵理、今日越してきたんだって」

「……こんにちは」

「こんにちは、五十嵐涼太です」

「桐谷恵理です」


 じっと恵理ちゃんを見た。そのまま見てたら恵理ちゃんが見返してきて、自分でも分かるくらい顔が熱くなった。


「よろしくね」

「ん」


 そっけない態度すらも俺にはかわいく見えた。だから


「可愛いね、恵理ちゃん」


 と素直に言っていた。


「ありがとう」

「恵理ちゃん」

「何?」

「俺と付き合ってください」


 何でいきなり告白してるんだ、俺は。
 告白した後、頬の痛みと同時に体が宙に浮いたと思ったらそのまま床に落ちた。痛いと感じる前に困惑が先にきて、痛覚が麻痺していたのがわかる


「……いってー」

「てめぇ、何言ってんだ。恵理に近付くな」


 気付いたのは床に落ちて少ししてからで結構痛い。グーで殴られたことより床に落ちた時の方が痛い。


「奨ちゃん、ただの告白だよ?」


 ただのって……やっぱモテるんだ。


「それがいけないんだろ」

「奨ちゃんまさかのシスコン!?」

「お前が奨ちゃん言うな」

「恵理ちゃんも奨ちゃんって呼んでんじゃん!」

「恵理とお前を一緒にするな馬鹿!」

「誰が馬鹿だ! 良いじゃんよ別に。そっちの方が仲良く感じるだろ?」


 友達は多い方が良い。少なくとも俺はそう思う。


「騒がしいな、誰か来てんのか?」


 今度は誰だ?


「京兄」

「うわ、何やってんだお前」


 誰? って言うか京兄って言った? じゃあこの人は二人のお兄さん?


「ああ、京兄……来たんだ?」


 奨が心底嫌な顔をしていた。


「土産を持ってきたんだが……お前誰?」


 まあ、ほっぺ赤くして弟と睨みあってたら気になるよなぁ。


「隣に越してきた五十嵐涼太です」

「涼太か。お前も食う?」

「え?」


 何故か饅頭を食うことになった。


「俺は桐谷京平。よろしく」

「よろしくお願いします」


 この人、やっぱり恵理ちゃんと奨のお兄さんなんだけど、……京平さんの威圧感がすげぇと思うのはなんでだ。


「大丈夫か? 顔、引き攣ってるけど」

「あ、はい。京平さんの威圧感が凄くて……あ」


 何言ってんだ俺! 初対面でしかも恵理ちゃんのお兄さんに!


「あっはは! 正直だな、涼太」

「……ども」


 正直者で終わるんですね。


「そういえば歳は?」

「今年で十七です」

「二人と同じだな。もしかして、学校も同じだったりしてな」

「えっと……深桜学園です」

「学校も同じか」


 そうなんだ。じゃあ一緒に登校出来たりして?


「親は?」

「親は実家で、今日から一人暮らしです」

「親元を離れて、ねえ」

「うちの親、ちょっとうるさくて。一ヶ月間、一人暮らししてちゃんと自炊が出来たらそのままいていいって言うんです」

「珍しいな。親なら独り立ちしてる方が嬉しいだろうに。子離れ出来てないのか?」

「そうじゃないんですけど、似たようなもんです」

「家柄とか?」

「……まあ、恥ずかしい話がそんなところです」


 「似た何か」って何だろうと、自分で思った。言えないことを言っても同じだから、それ以上は言わなかった。家族から、というか、両親から逃げたい一心で一人暮らしをすることにした今日。角部屋で同級生が隣人。安心と同時に芽生えた感情を俺は知ってる。一目惚れがほんとにあるなんて知らなかった。初恋は実らない、という迷信を女子がしていたのを思い出す。だけど、諦めたくないと思った。初めての感情を。この隣人たちを。これから始まる生活を。手放す気は無い。彼らが否定しても。



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