見えない引力
[02]
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 夕方、家に帰るとダンボールが隣の家にあった。それが指してることは空き部屋だった隣に人が来たってこと。


「……」


 何と無く嫌な予感がして、私は家に入った。


「ふーん……隣越してきたんだ」

「ん」

「だから何か騒がしかったんだ」


 首を傾げて奨ちゃんを見た。
奨ちゃんとくつろいでるとインターホンが鳴った。


「僕が出る」


 奨ちゃんが玄関を開ける音がした。
寝かけの私は何の話をしてるのかわからない。だけど、お邪魔します、と言っていたのは聞こえた。珍しい。奨ちゃん、あまりあげないのに。


「恵理、今日越してきたんだって」

「……こんばんは」

「こんばんは、五十嵐涼太です」

「桐谷恵理です」


 じっと見るから見返すと五十嵐涼太は頬を少し、赤に染めた。


「よろしくね」

「ん」


 そっけないのはいつもで、だからか知らないけど、それで離れていく人の方が多い。でも五十嵐涼太は


「可愛いね、恵理ちゃん」

「え?」

「恵理ちゃん」

「何?」

「俺と付き合ってください」


 突然の告白に目を見開いて五十嵐涼太を見た。呆気に取られて見ている私の目の前から五十嵐涼太が消えた。


「あれ?」

「いってー」

「てめ、何言ってんだ。恵理に近付くな」


 奨ちゃんが彼を殴ったのだとわかったのは二人が喋ったからだった。


「奨ちゃん、ただの告白だよ?」

「それがいけないんだろ」

「奨ちゃんまさかのシスコン!?」

「お前が奨ちゃん言うな」


 何やら言い合いが始まった。ぼーっと様子を見ていると鍵が開く音がした。京ちゃんが来たのかな。


「騒がしいな、誰か来てんのか?」

「京兄……」

「うわ、何やってんだお前」


 驚くよね。見知らぬ人と奨ちゃんが睨みあってるの見ると。


「京兄……来たんだ?」


 心底嫌な顔をする奨ちゃん。京ちゃんに合掌。


「土産を持ってきたんだが……お前誰?」

「あ、隣に引っ越してきた五十嵐涼太です」

「涼太か。お前も食う?」

「え?」


 あ、お饅頭だ。
 お饅頭を食べながら談笑して分かったことがある。涼太(名前で呼んで欲しいとせがまれた)は一人暮らしをして今年から同じ学校で同じ学年に通うという。クラス振り分けには居たんだとか色々。私と正反対で、明るくてテンションが高いから誰とでも仲良くなれる気がする。涼太はあの京ちゃんとすでに打ち解けてる。京ちゃんは元不良で名を馳せていたくらいは荒れていたから、それは凄いと思う。


「親元を離れて、ねえ」

「うちの親、ちょっとうるさくて。一ヶ月間、一人暮らししてちゃんと自炊が出来たらそのままいていいって言うんです」

「珍しいな。親なら独り立ちしてる方が嬉しいだろうに。子離れ出来てないのか?」

「そうじゃないんですけど、似たようなもんです」


 子離れに「似た何か」はあるのかな。このマンションに住めるくらいには裕福なんだろうけど……。やり取りを眺めながら私はいつの間にか寝ていた。



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