見えない引力
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 好き。恵理ちゃんが大好き。付き合っていた男子がいたってそれは変わらない。これからも変わらない自信がある。だけど……やっぱり痛い。伝わってるのに実らないもの。今の俺じゃ手に入らないもの。俺の知らない恵理ちゃんを知っている男……。それでも、俺が恵理ちゃんを知っていけばいい話だ。元彼が知っている恵理ちゃんを俺が知っていく……それでいい。嫉妬じゃない。このモヤモヤは嫉妬ではない。ただ、知りたいだけだ。恵理ちゃんを。恵理ちゃんのことだけを――。


「なぁ涼太ー」

「んー?」


 眠い中考え事はだめだった。ぼんやりして返事もお座なりになっている。


「クラス代表、種目、運動部活躍。これに該当する行事なーんだ」

「は?」


 クラス代表、種目、運動部活躍……。なんの謎々だよ。


「……あ、体育祭」

「そうです! 体育祭です!」

「なんでテンション高いの」

「俺はお前が低い方が気になるけどな」

「眠いんだよ」

「なんだ寝不足か?」

「そうだよ。悪いか」


 昨日は有頂天になりすぎた。そしてテンションのだだ下がり。そして寝不足。疲れた。体がテンションについてかない。いつもはそうじゃないのに。……いつもはテンション高いだけか。自覚があるから複雑だ。
恵理ちゃんは静かだ。それを知っているから知りたくなる。恵理ちゃんが俺のことを、どう思っているか。恋人ではないのは確かだ。俺は恋人じゃない。じゃあ友達? だと嬉しい。同級生とか隣人だったら虚しいし落ち込む。名前で呼んでもらうのに成功したは、奨との攻防があったからだ。恵理ちゃんは何も言わずにあっさり「涼太」と呼んだ。せめて友達だと、言ってほしいなぁ。
せめて……せめて……今だけは「友達」で良いから……。


「涼太?」

「ん?」

「お前大丈夫か?」

「んー。寝る」

「そうかそうか……寝る!? おい涼太!?」


 今は眠い。眠いだけ……。だからネガティブになるんだ。暗い暗い場所に意識を向けていく。慣れているその感覚に身を落とすと、意識は自然となくなっていた。
 嫌な夢は見ない。それは自己防衛なのか、そうでないのか。まあ、夢の内容は覚えていないだけなんだけど。けれど、とても疲れた。授業を聞いた覚えがないのがヤバい。


「大丈夫か?」

「ん? うん」


 熟睡して起きて、余程眠そうなのだとか。ぼけーとしてる心配をされた。テンションが低い涼太は涼太じゃないとか散々言われた。どーゆーこと。俺どんな風に見られてるの。心外だろおい。もう少し寝ていたい気もするが、それは出来ない。バイトに行かなくてはいけない。とても面倒。


「五十嵐ー。どうしたー?」

「眠いんだとよ」

「じゃあ桐谷さんに」

「恵理ちゃん!?」

「伝え――ってはやっ!」


 確かに「桐谷」に反応するのは早かったと思う。思うけどさ、普通じゃない? 好きな人の名前を聞いたら反応早いものでしょ。俺はそうだよ。今がそうだったし恵理ちゃんが好きだもん。


「で、恵理ちゃん来てるの?」

「そ、そうだけど……」


 急いで扉を見ても姿は無い。なぜだ。邪魔にならないようにしているのかな。


「えーりちゃん」

「涼太」

「どうしたの? 珍しいね」


 初登校と数日以来だ。恵理ちゃんが待ってくれてたの。にこにこしていたら気持ち悪いと言われた。つら。でもほんとにどうしたんだろ。珍しい。


「どうしたの?」

「涼太って体育祭、出る競技決まった?」

「え? いや、決まってないけど」

「そう。じゃあまたね」

「いやいやいや! 待って恵理ちゃん!」


 競技が決まったか聞かれたから否定したらそれですか! ちゃんと説明してください! 俺訳が分かってないよ!


「何?」

「今の、何?」

「奨ちゃんも決まってないから」

「……つまり勝負しろと?」

「うん」


 どんだけ目の敵にされてんだよ、俺。


「たぶん、奨ちゃん負ける」

「え?」

「奨ちゃんより涼太の方が運動得意でしょ?」

「……ええ?」

「じゃ」


 一体なんだったんですか、恵理ちゃん。俺分からないんだけど……。まあ、奨と勝負するのは嫌いじゃないからいいけど。どっちもフェアじゃないけど。俺勉強そこそこだけど運動は出来るし、あいつはその逆。どっちにしろアンフェアだ。取り残された俺が、何の競技があるか聞いたのは、それから翌日のことだった。



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