見えない引力
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 きょーっうはえっりちゃんとすっいぞっくかん! はーれってとっても良かったな!
 玉砕覚悟で誘った水族館。行く日が今日! 晴れて良かった〜。雨ってじとじとするから苦手なんだよね。あと、靴の中濡れるの。だから晴れて良かったって思ってる。


「あ! やべ!」


 現在の時間、八時五十二分。待ち合わせの時間、九時。マンションのエントランスだからまだ間に合うけど、きっと、恵理ちゃんは既にいるはず!
 急いでエントランスに行くと、恵理ちゃんの名前を叫んだ。


「恵理ちゃん!」

「どうしたの?」


 やっぱり! 既に恵理ちゃんはいた。奨も椿もいない正真正銘のデート!! ヤバい。テンションが上がる。恵理ちゃん私服だし、雰囲気違って見えるし。


「涼太?」

「な、何でもない! 何でもないよ!」

「そう」


 考えたら考えた分だけおかしなことになりそうだからやめよ、うん。ちょっと……いや、大分興奮してるから、これ以上はやめる!


「えっと、……行こっか」

「うん」


 俺たちはマンションを出る。水族館までは電車を乗り継ぐ必要があるし、土曜日だから人も多いだろうということで、誘う時に九時と言った。でも、九時でも多いとは思う。だって休日だもん。


「恵理ちゃん」

「ん」

「最後に水族館行ったのっていつ?」

「中学」

「家族と?」

「違う」

「じゃあ友達と?」

「ううん」


 家族でもなく友達でも無いなら……恵理ちゃんまさか!? か、か……彼氏!?
あまり信じたくはないけど、あり得ない話じゃないよね。


「……それはえと……」

「……」

「彼氏さん……ですか?」

「そうだけど」


 うん。分かってた。分かってたよ!? 恵理ちゃんに彼氏いたって聞いてたから! 水族館なんてデートじゃ定番だし、行ってて普通なんだけど、モヤモヤする。それってやっぱ彼女のこと、好きってことじゃん? 一目惚れでも、恵理ちゃんが俺以外の男と水族館に来たことにモヤモヤしてるってことは、この好意が本物である証拠。あれ。俺ってこんな重かったっけ。


「だめだわ」

「何が?」

「な、なんでもない」

「さっきからそればっかだね」

「そうかな」

「うん。あと、どもってる」


 うっ……。それは否定出来ないな。
 恵理ちゃんは分かってるかな? 俺が緊張してる理由。何回好きって言っても、たぶん君は、他と同じようにしか思ってない。どれだけ俺が、想っていても。





 水族館に着いて、入る時に無料券を渡す。そのままゲートを潜ると、思いの外広いことに驚いた。天井に合わせてるからか、ガラスは大きい上に高めで、色んな魚を見ることが出来る。でも裏側である一番上は見えないようになっていて、それがとても残念。楽しいから良いけど。


「涼太は聞かないの?」

「何が?」

[はる]ちゃんのこと」


 春ちゃん……ねえ。それが恵理ちゃんの元カレの名前[あだ名]だと分かるのは、元カレの存在を知っているし、恵理ちゃんが聞いているから。分かりたくないと思うのは俺の意思か。それとも、無意識なのか。


「俺はその春ちゃんを越える存在になるから!」

「……そう」


 あれー。なんか反応薄い。それだけ春ちゃん≠フ存在が大きいってこと? 眼中に無い、よりは良いけどさ。ちょっとくらい、期待してくれても良いでしょーに。


「恵理ちゃんはまだ、春ちゃんが好きなの?」

「……ひみつ」

「えー。教えてくれても良いじゃん」

「やだ」


 ぐっ! そんなこと言われたら何も言えなくなるじゃんか! とことん、恵理ちゃんに弱いらしい。


「そろそろ半分くらいかな?」

「みたいだね」


 水族館も半分ちょっとくらい回ったところで、お腹が空いた。ちゃんと食べたはずなんだけど、仕方ないよね。


「そろそろご飯にする?」

「うん」

「お昼時、過ぎてるね」

「そうなの?」

「うん。だいたい午後二時を過ぎると落ち着く時間帯だから」

「へえ」


 少し感心したような恵理ちゃん。認めてくれたみたいで嬉しいな。あの人たち、俺のしてることにいちいち口出ししてくるから、認めてもらえるのはすごく嬉しい。
 水族館内部にある喫茶店に入って席に着く。メニューを見ると、いろいろかわいらしい。シュテルンもこだわってると思うけど、最近の水族館もこだわってるんだなあ。別のとこに来ると勉強になる。こういうところもけっこう楽しい。


「水族館出たらどうするの?」

「ん? どうしよっか」

「……」

「考えてなかった。どこか行きたいとこある?」

「別に」

「電車の時間もあるし、奨も家だったら、帰る?」

「うん」


 ああ……何か、今日の俺、へたってる気がするのは気のせいでありたい。


◇◆◇◆◇


 最後のルートを回って最初の所に戻ってきた。人の多さはあったけど、昼過ぎに回った分、午前程多くはなかったのが救いだ。恵理ちゃんは人の多い場所は好きじゃないだろうから。それより、恵理ちゃんが楽しめたかが気になるところである。元カレのことを聞いたりしたから落ち込んでないと良いけど。


「恵理ちゃん」

「何?」

「あの……元カレのこととか、聞いてごめん!」

「何で謝るの? 別に気にしてないよ」

「でも……」

「良いよ。楽しかった」

「……うん。ありがとう」

「じゃあ、また明日」

「うん。また明日」


 楽しかった。その言葉が、俺の心を暖かくしてくれる。嫉妬なんて、簡単に消してくれる。



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