見えない引力
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先輩から貰ったチケットを手にどうしようかとヒラヒラさせて遊ぶ。恵理ちゃんを誘いたい。けどそうすると、漏れなく奨と君島が付いてくる。せっかくだから二人で行きたい。そう思うのは俺だけじゃないはずだ。世の中の片想いしてる男はそう思ってるはず!
「やっぱ学校かな」
家だと奨いるし。学校じゃ君島がいんだけど。メールすりゃ良いんだけどアドレス知らないから出来ないし、……やっぱ学校しか無いか。 よし、そうと決まれば言うぞ! 君島や奨が来るとしても誘うぞ! 一応、デート……だもんな。付き合ってないけど。
翌日、俺は昼休みにC組へと来た。もうどうとでもなれって感じでちょっと投げ遣りだったりする。そして緊張もしてる。手に汗が滲んで気持ち悪い。緊張しすぎな自分に意外だなって思ってもいる。今まで緊張ってあまりしなかったし、恋ってすごいことなんだな、うん。
「涼太、どうしたの?」
「……うわあ!?」
「……」
じっと見られるこの威圧感。ってか重圧? え、何ですか。驚いたことに怒ってるんですか。ごめんなさい。さすがに俺が悪いから謝るよ。ほんとごめんなさい。
「何か用?」
「あ、うん。バイトの先輩から水族館のチケット貰ったんだ。行く?」
「涼太と?」
「うん。……ダメかな?」
「良いよ」
「そっか。良かった」
ほっと一息吐く。実は二人がついて来るよりも、断られるかどうかが一番緊張したんだよね。一目惚れとはいえ好きな子に嫌って言われるの悲しいじゃないか。
「他に誰かいるの?」
「い、いない。二人じゃダメかな?」
「良いよ」
俺は小さくガッツポーズをしていた。よっしゃ! と心の中で叫んだのは秘密だ。
「今週の土曜日って空いてる?」
「うん」
「九時にマンションの玄関で待ち合わせで良い?」
「うん」
「ありがと。恵理ちゃん!」
「じゃ」
「うん。またね!」
よっしゃあ! これってデートの約束だよね!? 土曜日に恵理ちゃんと……変な意味は無い! 恵理ちゃんとどうこうしたいなんて思ってないし、この距離が心地好い。まだ会って数ヶ月。然れど数ヶ月。俺は恵理ちゃんに恋をした。恋人になりたいけど、今はまだ恵理ちゃんと離れたくない。気不味い距離にしたくない。
この時の俺は、自分のことで精一杯で、恵理ちゃんが本当は誰を見ているかなんて、今の俺は知らなかったんだ。