見えない引力
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球技大会が終わって振り替え休日の今日、俺は昼からいそいそとバイトに励む。早くあの家出たいし。世襲じゃないといけない理由なんてないし、俺は自由に暮らしたいんだ。
「おー五十嵐。働いてんな」
「よー冴島。バイトの邪魔か?」
もはや悪友と化し始めている気がするのは俺だけではないはずだ。冴島はシュテルンの常連だそうで、バイトの先輩にぞっこんらしい。そんなことを知っているのに俺は冴島のオーダーを取る。こいつが頼むのは大概同じなのだ。
「うーん」
「どうしたんだよ。いつものだろ」
「いやちげーよ!?」
「で、何頼むんだよ」
「無視かよ!」
そうです、無視です。だって俺バイト中だもん。店長怖いもん。
「じゃあオレンジソーダとマカロニチーズグラタン一つずつ」
「他にご注文は」
「以上で!」
「飽きないな」
「何とでも言っとけ!」
「しばらくお待ちください」
悪態つく冴島をほっぽって奥に行く。あーあ。どうせなら恵理ちゃんに会いたかったな。冴島じゃなくて。苦でも無いバイトが終わるのは九時くらい。休みの日は会えないのがつらい。
「五十嵐君、お疲れさま」
「お疲れさまです。お帰りなさい、先輩」
冴島がぞっこんな先輩が買い出しから帰ってきた。先輩は多い荷物を持ち上げてテーブルに置いた。
「重い」
「言ってくれたら行ったのに」
「だって五十嵐君、接客してたじゃない」
「その時だったんですか?」
「私が休憩中だったからって名指しよ」
「それは……お疲れ様です」
シュテルンのホールは女性スタッフが多い。男性スタッフもいるにはいるが、厨房とか裏方に多い。もちろん、俺にみたいにホール担当もいる。募集は厨房は経験者、未経験者でも可なのはホールくらいだった。厨房未経験の俺は当然ホールを希望した。面接からは分からなかったけど、初めて来た時には女性スタッフが多くてびっくりした。しかもシュテルン、ドイツ語で星という意味で、名前の通り野菜は星型に切ったりとこだわりが見えた。これは未経験者には無理だと思った瞬間だ。シュテルンはチェーン店だけど、この店は名前だけでなく、強面の店長も有名なのだとか。
「あ、そうそう。水族館のチケットあるのよ。五十嵐くん、いる?」
「水族館?」
「そ。知り合いから貰ったんだけど、二枚も使う機会が無いの。今週の日曜日までだから。五十嵐くんって土曜日休みだったでしょ? だからあげる」
「あ、ありがとうございます」
「好きな子でも誘っちゃえば? それ、二人まで入れるから」
「……そうします」
恵理ちゃん誘っても自腹切ってでも奨が来るんだろ。そして流れで椿もついて来る。そんな構図しか出てこない。
「女の子の取り合いに見えるかな」
「何か言った?」
「言ってませーん」
明日にでも駄目元で訊いてみよ。奨と椿がついて来ると思うけど。
俺は貰った水族館のチケットに想いを馳せた。