見えない引力
[10]
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 第二体育館に行くと恵理ちゃんは入り口付近に座ってじっと試合を見ていた。


「恵理ちゃん」

「……椿君に涼太?」

「何してんだ?」

「見てるだけ」

「そっか」


 相変わらずな反応だ。君島は慣れているのか女子の試合を見ている。それもなんだけど、何故か視線を感じる。主に君島へと向けられている。君島は結構モテるんだな。と思った。勉強できてかっこいいならモテるか。優等生タイプだもんな。


「……」

「どうした? 五十嵐」

「君島ってモテるんだなと思って」

「は?」


 いやはや、無自覚ですか君島は。好きになったら告白しないと気づかないのか。いや、まあそこは君島のことだから俺には分からないところだけど。


「……」

「ん?」


 何やら視線を感じたと思ったら恵理ちゃんだった。俺だけじゃない。君島も見ている。


「苗字なんだ」

「何が?」

「呼び方」


 呼び方? 気にしたことは無かったけど……今更な気もする。四月に始業式があって今は五月。約一ヶ月くらい苗字で呼び合ってたぞ。
 まあ、女の子ならまだしも男なら普通だろ。


「……」

「……」

「……」


 なんか気まずい雰囲気になったじゃないか! これはなんだ、名前で呼べってことか。俺が友達を名前で呼んでたのは何でだ。そこからじゃないと分からなくなってるぞ。


「おーい! 五十嵐! 君島ー!」

「え? あ、体育委員だ」

「もう試合?」

「そうだよ。二人ともいないから、捜しに行くことになったんだよ? そしたら桐谷君が、恵理のとこじゃないの? って言ったから……君島?」

「あー……いや。何でもない」


 君島の表情が曇る。何故だかとても嫌な予感しかしません。
 第一体育館に戻ると、整列したスターターの選手がコートにいた。そこには何故か君島談で運動が苦手な奨もいた。


「……君島」

「ん?」

「奨がスターターでいいわけ?」

「まあ、向こうが良いならいんじゃね?」


 奨から敵愾心をひしひしと感じるのは俺だけですかそうですか。


「……あいつが素直に居場所教えるわけだ」

「え?」

「運動苦手なのにどうすんだか。まあ、苦手なだけで出来ないわけじゃないからなあ」

「ねえ君島。それなんの話だ」

「気をつけろって話だ」


 整列してるとこまで話ながら来たけど、何だか気が重くなってきた。奨の敵愾心を一心に受けそう……いや、むしろもう浴びてるのか。


「二年A組とD組の試合を始めます!」

「よろしくお願いします!」


 あーあ。嫌な予感しかしねーわ。とか思っていたらそれは的中した。奨がパスをするのはチームメート。だけど、それはパスじゃなくて投げつけていると言っても過言ではないと思うわけ。バスケットボールって痛いから避けちゃうよ。


「……荒れてるなあ」

「何で俺だけ……」

「桐谷妹に手を出したから?」

「告白だけで出してないから!」


 これでも好きな子は大切にするっての……。


「だっ! おい、奨!」

「何だ」

「俺にぶつけるなよ!」

「ちゃんとパスしてるだろ?」

「ああしてるな! 俺がいるところに」

「僕はお前を狙ってない」


 屁理屈だ。絶対、屁理屈で返しやがった。ボールを投げつけるのはどうかと思うけど、奨には理論派的なところがあるみたいで……


「またスリー……」


 スリーポイントを入れられた。


「五十嵐!」

「おうよ」


 クラスメートからパスを貰ってドリブルする。速度の加減が出来ません。
フリースローラインより前だけど、ゴールから少し離れた場所で止まってボールを構える。正直、俺のシュート成功率は低い。リバウンド頑張ってください。


「……」


 ゴールを見据えてボールを放つ。ボールは歪な線を描いてゴールに当たる。外に弾かれたボールを君島が取る。君島がボールを放つとそれはガコンッと音を立ててゴールに入ってホイッスルが鳴った。結果として、試合には負けた。


「試合終了!」

「あちゃ〜」

「負けたかぁ」

「まあ清々しいから良いか」

「良いから整列しろよ!」


 なんか今日、怒鳴られてばっかな気がするぞ、俺。
 球技大会が終わったら、カラオケに打ち上げに行くことになった。


「かんぱーい!」


 球技大会が終わった。そんで、俺らD組の面々は話していた通り、打ち上げでカラオケに来ていた。こうして見ると、深桜の生徒も普通の高校生なんだと実感する。でもさ、坊ちゃん嬢ちゃんがカラオケって良いのかな? まあ、楽しそうに打ち上げしてるから言わないけど。


「やっぱりあいつら不参加ー?」


 マイクを通して喋るのはクラスのムードメーカ冴島。この打ち上げの立案者だ。やたらテンションが高いのは日常茶飯事。クラスの中心ってああいうの多いな。


「あいつらって?」

「高校から深桜に来た奴ら。うちのクラス分けは成績順じゃないからな。成績悪い奴は悪いし、良い奴は良いだろ?」

「うん? それが?」

「自分たちは勉強してやっと入ったのに、僕たちはほとんどがエスカレーター。だから、彼らから嫌われてるってわけ」

「ふうん。お前ら、良い奴らなのにな」


 そう言ったら、クラスの奴らは驚いたような顔をしてからわっと騒ぎだす。


「……え?」

「やっぱお前、あいつらと違うな!」

「素直だし厭味じゃないし」

「接し方普通だし」

「なんだ?」

「お前はクラスメートに変わった奴ってレッテルを貼られたんだ」

「変わった奴なのはこいつらだろ!?」


 俺は至極まともだ。変わってなんかいない。こいつらがちょっと変わってるんだ。


「……ああ!」

「何だ」

「俺バイトなの忘れてた!」

「もう七時だぜ?」

「明日学校休みだからって今日のシフト夜からなんだよ。悪いな。じゃ、またな!」


 ああもう。九時からで良かった。じゃなかったら遅刻で店長に締め上げ……やめよう。それ以上考えるのはやめよう。俺は受付に帰ることを言ってから店を出た。明日はバイト昼からだし、何しようか。そう考えながら、バイトに励んだ。



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