見えない引力
[09]
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球技大会当日。体操服に着替えた生徒の横を、慌ただしく走り回る体育委員と運動部員を眺めた。いつもと変わらない時刻に始まるホームルームに体育委員と運動部員はいない。
「良い天気だなぁ」
「いろいろと忙しい奴はいるけどな」
「だなぁ」
「そういえば、桐谷兄は?」
「今日は来るって恵里ちゃんが言ってたけど」
君島は固まった。なんて言うか、マジかって訊きたそうな顔をしてる。
「……来んの? あいつ」
「恵理ちゃんはそう言ってたけど……君島?」
「あー……いや。あいつ、勉強は出来るけど運動は苦手だからさ」
「前に言ってたな」
「ま、出席日数とかあるからなあ」
出席日数ギリギリで来ているらしい。どんだけ学校嫌いなんだよ。つか、奨って普段は何してんだよ。謎すぎんだろ。いや、でもまあ、そんな奨にも仲の良い奴がいるってことだろ。オレにもよくしてくれるし、そう考えるとほんとにいいとこだよな。
「なあ、君島」
「ん?」
「この学校、良いな」
「何だ、突然」
「言いたくなっただけだ」
言いたくなったのは俺や奨のことだけじゃない。基本的に自由なこの学校が俺は気に入った。まだ少ししか通ってないけど。
「ホームルーム始めるぞー」
かったるい。それでもどこの高校でもホームルームは面倒だ。思いながら、球技大会の説明と注意を聞いていた。
◇◆◇◆◇
空は青い。ってのに、何で俺は体育館にいるんだ。
体育館シューズが床を蹴る度に音を鳴らす。誰かがスリーを決めたとかで歓声が起きる。俺はそれを不真面目に眺めていた。
「バスケは好きなんだけどなあ」
「試合見るのは嫌いか?」
「見てるとやりたくなってくる」
近くにあったボールを手にする。何回かバウンドさせて君島に渡した。
「何」
「暇」
「じゃねえよ! 何すんだよ試合中に!」
「いいじゃん。コートに流れなかったら」
「お前な!」
「じゃあパス練習ってことで」
あ、ため息つきやがった。でもボールを返すってことはやっていいんだよな?
「なあ」
「今度は何だ?」
「今って自由に動いていいのか?」
「自分の試合になったらいればいいと思う。お前みたいに見るの嫌いな奴もいるからな」
「……刺々しいのは仕様か?」
「何のことだ?」
良い笑顔ありがとうございます。って君島に直接言えたらいいな。きっと言える日は来ないだろう。
「じゃあ第二体育館行こうぜ。恵理ちゃん、バレーって言ってたし」
「お前、わざわざ訊いたのか」
「俺じゃねえよ。ほら、あそこの金髪くん」
「ああ、塚本か」
「奨がバスケって言ったのもあいつだからな」
「ふうん」
君島は興味なさそうにしている。それでも考えるそぶりを見せているということは気になっているには違いない。
「まあ、行こう」
考え終わったのか、返事はそっけない。そして、君島の様子が少しおかしい。けど俺たちは第二体育館に向かった。