見えない引力
[08]
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あー……たる。
バイト中の俺はスタッフルームで脱力する。日曜ともなるとファミレスに来る奴は多い。まだ春とはいえ、それなりに暑い日が続いている。
「五十嵐、休憩中か」
「そうっすよ。見てわかんないんですかぁ?」
「そんな脱力されてたらサボりかもって思うだろ」
店長は冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出した。
「ほら。水分補給。それと糖分」
どこに隠し持っていたのか羊羹を手渡される。俺はそれを机の上に置いて見た。
「羊羹で糖分摂取出来るんすか?」
「あ? んなもん知るかよ。いらねえなら返せ」
「貰う! 貰いますから持ってかないで!」
正直な話、今日は朝飯を食ってない。
寝過ごしたのが原因だ。十時開店だから休日にシフトが入ってる時は一時間前くらいに着いて、色々と準備をしてから開店時間を待つのが常。なのに今日起きたのは九時だ。結局、準備には間に合わずして開店時から働いている。
「いつも早めに来てんだ。今日も仕事の時間には間に合った。だから気にすんなよ。堂々と遅刻する奴もいんだから」
「おはようございまーす!」
「ほらな?」
「はは。慰めありがとうございます、店長」
あの人の遅刻は今に始まったことじゃないしね。店長、諦め入ってるよ、絶対。
「そういえば、五十嵐くんって深桜学園の生徒だったよね?」
「そうだけど」
同僚に声をかけられてそれに答えた。同僚は感心したように頷いた。それから腕を組んでうんうん、と言ってさらに首を振る。
「それが?」
「深桜って金持ち学校でしょ? だからバイトして小遣い貯めるの偉いと思ってさ」
「……別に。そうしないと食えないだけだよ。いつまでも親の脛囓りって世間に顔立たないし」
「そんなことないよ。世の中にはニートって奴がいんだから」
「何が言いたいの?」
自分でも冷たいとは思った。金持ちだから何だって思ったんだ。俺の家は財閥関係者じゃないし、旧家でもない。小さな会社を経営してるだけだ。深桜だって金持ちばかりじゃない。
「え? ……いや、何でもないよ。五十嵐は気さくだと思って」
「深桜の生徒は気さくだよ。転校生もちゃんと仲間として受け入れてくれるしね」
「でも、いけ好かない奴いるんじゃない?」
「いないよ。みんな良い奴」
「それ五十嵐が良い奴なんだって! そんな金持ちが気さくなわけ……」
近くの壁に拳をぶつける。正直に言うと痛い。ぱらぱらと壁が散っている。火事場の馬鹿力って言うのかな。
「うるせぇよ。知らねぇくせに言うんじゃねぇよ」
「なっ。俺は五十嵐がしんぱ……」
「俺は馴染めてるよ。ちゃんと、友達もいる。だから友達を悪く言うな」
俺ってこんな熱いキャラだっけ。、そんなことを考えた。
「五十嵐ー。壁の修理費給料から差っ引いとくぞ」
「げぇ」
ぽん、と肩を叩いて言われたのは減給。今月やってけるかな。