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▼ 地獄で君とワルツを

エレンのように、巨人に対して特別強い憎悪があったわけじゃない。
もともと私は孤児だったし、親しい友人がいたわけでも、この世界に思い入れがあるわけでもなかったからだ。
生活のために仕方なく入隊した訓令兵としての生活も、無機質に過ごしていた。
巨人に食われて死ぬのもいいかもしれない。どちらでもいい、生きてても、死んでも。
私にとっての巨人とは、いつか私を殺すであろうモノ。ただそれだけだった。

「おい、ちゃんと飯を食っているのか。」
そうだ、始まりはそんな一言だった気がする。
同期の兄貴分、ライナーとの会話は。

ライナーは私のような孤立する存在にすら気をかける、お節介野郎だった。
「普段はちゃんと食べてるよライナー。今日は食欲があまりないだけ。」
「嘘をつくな。昨日だって飯を残りしていただろう。ちゃんと食べろ。俺たち兵士は体が資本なんだからな。」
昨日の食事量も把握されている。
たまたま近くにいたコニーに、お前は母ちゃんかよ!と言われていたが、私は生憎母ちゃんがどんなものかわからないので曖昧に笑うことしかできなかった。

ライナーは、不思議な人だ。
いままで私は同期と話したことなんて数える程しかしたことがなかったのに。
ライナーに話しかけられるようになってから、人との関わりが増えた。
ライナーは、人を惹きつける人なのだ。
私に毎日話しかけるライナーに、後ろのベルトルトは何故かあまりいい顔はしなかったが、それでも彼も、私を邪険に扱う事はなかった。




「ここにいるメンバーを、新たに調査兵団として歓迎する!」
エルヴィン団長の声が響き、私はあたりを見渡す。
泣いているモノ、強い信念に燃えるモノ、無表情なモノ。いろんな感情の中、私たちは調査兵団に入隊した。

「お前が調査兵団とは,意外だったなぁ。まぁ、ジャンの意外性に比べれば負けるけどな。なんで憲兵にしなかったんだ?」
その日,ライナーが私にそう話しかけた。
そんな彼に,私自身少し返答に困る。

「…….正直、どこでもよかったんだけど、その、」
「なんだ?」
「ライナーや、ミカサたちと仲良くなって、みんなを死なせたくないと、思うように、なって、しまった……………」

みんなを死なせたくない。
言葉にすると,なんと恥ずかしいことか。
私の顔にじわじわ熱が集まってくる。
「ら、らいなー?泣いているの?」
「いや、すまん…あんな一匹狼を気取っていたお前が,そうか…」
「ちょ、やめてよライナー!はっっず!なんかいますごい私たちはずい!」
「そんな事はない。お前にも守りたい友達ができたんだな。その中に俺も入れてくれて嬉しいぜ。ありがとうな。」

ライナーは、人を惹きつける人なのだ。
不思議と人は彼に惹かれ,彼に憧れて、彼を尊敬する。
私も例外ではなかったらしい。
私は,この日,ライナーブラウンへの恋心を自覚した。






なにが、起こっているのか。
エレンの巨人化から始まり,ユミルと続き、そして


「すまない。お前を連れ去ってしまって。立体機動装置があと一つ必要だったんだ。」

ユミルとエレンを攫ったベルトルトとライナーは、立体機動装置が必要だという理由で私まで口に放り込んだのだ。

「なんで、殺さなかったの。」
絞り出すように声を出せば,ユミルがそうだぜベルトルさん。と言葉を続けた。

「なんでこいつを殺さなかった?こいつに巨人化の力はないし,立体機動装置が手に入ればもうお荷物でしかねぇだろ。それとも何か?このどでかい木の上にこいつを放置して行くのか?こいつは兵士だぞ?戦うに決まってる。それなのになぜ不傷でここまで連れてきた?」

ベルトルトは、何も答えない。
ライナーも、どこかとおくをみつめているだけたった。
エレンが目覚めたあと、ライナーの記憶の混濁を見て私はやるせない感情に支配される。
私の記憶のライナーは、偽物なんだと,敵なんだと、強く,憎悪できない。
どうして、どうしてこんな、いっそのこと,嫌いにならせてよ。
「なんでよ、ライナー。」
私の声は,誰にも届かない。


ユミルと私は、ライナーとベルトルトに連れ去られ、この地にやってきた。
ユミルはあの日から見ていない。
ライナーたちに拘束されながら、初めて見た海は広くて、それが私を絶望させた。

商人でも取りきれない程の塩があるという海。
本当はみんなで見るはずだった。
アルミン,海は,綺麗で,雄大で,こんなにも、私とあなた達を引き離すものだったよ。

私の涙が,海に溢れていく。
混ざって仕舞えばいい。もうみんなみんな、混ざって溶けて,海になればいい。
巨人も,人も,敵も,味方も。

あれから何年が経ったんだろう。
もうそれすらもわからない。
足枷をつけて,窓もついていない部屋で日々を過ごした。
食事を運ぶライナーは、毎日毎日、私の足元で泣いた。
すまなかった,許してくれ、こんなつもりじゃなかった、お前らが悪いんだ、悪魔の末裔め、ちがう、すまない、俺が悪魔だ。
毎日毎日呪いのように囁かれるライナーの言葉達は,私の中に浸透していく。
謝罪と、憎悪、ライナーの感情は混沌として、深く深く混ざっていて、いま私の前にいるのは戦士のライナーなのか、兵士のライナーなのか、わからない。
わからない。私はなぜここにいて、私は毎日毎日、ライナーのうわごとを聞いて、
わからない。私はなんの為に生きて、
私は何のために。

「全てが,全てが嘘じゃなかったんだ」
ある日,私の膝に縋り付いて泣くライナーをみて、私の瞳からも雫が落ちる。
二つの雫は,落ちて,混ざる。
混ざる。混ざって,ひとつになって,もう、どちらの感情かわからない。

「ライナー,ライナー。大丈夫、大丈夫だよ。」

憎かったはずなのに。許せなかったはずなのに。
私の愛したライナーも、このライナーも、
ライナーブラウンなのだ。拒絶なんて,できなかった。
気づけば彼を抱きしめていて,変わらない現実に目を背けるように二人で時を過ごした。
うわごとのように謝罪を繰り返すライナーに
世界が敵に回っても私はあなたの味方だと、何度も何度も愛を囁いた。

世界は残酷だ。
この人も,残酷な人。
変えようのない事実から目を逸らし,月日を過ごす。

もう私の足枷は外されていて、私は自分の足で走れるはずなのにそうしなかった。
彼の元から逃げたいなんて感情、とうの昔に無くなっていた。
何年経ったんだろう。もしかしたらまだ数日かもしれない。数年かもしれない。
それすらもわからない。

でも、もし、もしエレン達が私を迎えにきたら?
この地に、刃を向けにきたら?
私はどちらを取るのだろう。
大切な友人達か
世界の敵である愛しい人か。
その時ライナーは、どうするのだろう。

「俺はきっと地獄に堕ちる。」
私の横で目を閉じるライナーが、つぶやいた。そんなかれの手を取り、私はその胸に顔を埋める。
「その時は,私も一緒に地獄に堕ちてあげる。一緒に,死んであげる。どんな結末になろうとも。」
ライナーは、ありがとう。そう言った気がした。


そして、いま。
家の中で、遠くから聞こえるタイバー家の演説に耳を傾けていた。
突然だった。気づけば,街は崩壊し,私は瓦礫に押し潰される。
『誰もが劇的に死ねるわけじゃないみたいだぜ。』
いつの日かのジャンの言葉が頭によぎった。

私の人生はここで終わるのだろう。
ライナー,待ってるから。あそこの地獄で待ってるから。ずっとずっと待ってるから。だからこの世界(地獄)で、少しでも幸せに生きて。

やっと、救われる。
私は、笑みを浮かべて空を見上げる。
巨人化したエレンと,最後に目があった気がした。

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