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▼ 砂漠に咲いた花

初めて見たときから、いけ好かなかった。
カリムの許嫁だと、12の時紹介されたこの女に抱いたのは『いけ好かない』ただそれだけだった。
なにがそんなに気に入らないのか、自分でもわからなかったけれど。
“金持ちの未来”が約束されているこの女の将来がムカつくのだと無理やり自分を納得させた。
その女は、カリムと絨毯に乗り空へよく出かけた。
バカの一つ覚えのように星空ばかり見に行く二人に、俺のイラつきはますばかりだった。
金持ちの道楽。勝ち組の生き方。
カリムとあの女が食べる夜食を作るため、鍋をかき混ぜながらそのイラつきを深いため息とともに鍋に閉じ込めた。

いつからだろう。カリムといるのが煩わしく感じるようになったのは。
ヘコヘコする両親。
屈託のない笑顔を向けるカリム。
馬鹿みたいに、カリムの横で笑っているこの女。

すべてが、俺の感情を逆なでさせる。


「こんな所にいた。」
14の夏、カリムが王族のあいさつとかなんとかで宮殿を離れている日、そいつは現れた。
「…カリムならまだ戻っていませんよ。」

木陰で休んでいた俺は、服についた草をはらい立ち上がる。
唯一の安息の場所だったのに。この女にみつかるなんて最悪だ。

「知ってる。だからとっても暇なの。ねぇ、すこしだけ相手、してよ。」
「お喋りですか…。」
「あー、また敬語。もう二年も一緒に遊んでいるのに。敬語なんていらないってば。」
「…カリムの許嫁にタメ口なんて、バレたらどんなめにあうか。」
「ふふ、それでもタメ口、使ってくれるのね。」
笑う彼女の、赤いスカートが風になびく。
砂漠にその赤は、ひどく鮮明に見えた。

「はぁ…で?お姫様はなにをお望みで?」
「んふふ。あのね、踊ってほしい。ジャミルの踊り、見たい。」
なんだそんなこと。
魔法の絨毯に乗りたいとか、豪華なパレードが見たい、だのを想像していたが、創造よりも簡単な“おねだり”に拍子抜けする。
「仰せのままに、だ。」
ふざけたように敬語を使えば、そいつは嬉しそうに笑った。

「やっぱり、ジャミルの踊りが一番カッコいい。」
「…未来の旦那様に怒られるぞ。」
「カリムの良さはダンスだけじゃないんですー。」
くすくすと笑う顔に、また、あの胸が焼けるような衝動。
「…ねぇジャミル、カリムの良さは、知っているでしょう。私たち、三人でずっと一緒だったんだもの。」
「…そうだな。」
額に流れる汗をぬぐって答えれば、彼女は立ち上がり、俺に視線を合わせる。
先ほどよりも近くなった視線に、少しだけ、本当に少しだけドキリとした。

「ねえジャミル。カリムはいい人よ。本当に。…でも、でもね、私」

ここから先は、パンドラの箱だ。
俺は「カリムは」と女の言葉を遮った。

「カリムは、今日の夜には戻る。…食事を用意致しますので。どうぞ応接室でお待ちください。姫様」

俺と、お前の関係
俺とお前の距離。
忘れるな。俺たちの存在理由。

俺はカリムの従者で
お前はカリムの許嫁
それが俺らの与えられた役。

「…そうだね。ありがとう。席で待たせていただくわ。」
作ったような気取った口調に、うやむやしく頭を下げた。


そして、いま。
オーバーブロットした俺が、闇に飲まれる前に思い出すのは、あの日のあいつ。
どうせ、どうせすべて壊してしまうなら、あの日あいつの手を取ればよかった。
あの砂漠に咲いた赤い花を、俺の腕で摘んでしまえばよかった。



「ジャミル!ジャミル!」
目が覚めた時には、馬鹿みたに俺の名前を呼ぶカリムがいて、ああ全部終わったんだと理解した。
俺たち一族は終わりだ。たった、たった一回の俺のわがままによって。
そう思ったのに、このバカは俺と友達になりたいだのなんだ言うもんだから。
煩わしいような、しかし清々しい様な。不思議な感覚。
だが前より生きやすい。まえより、息がしやすい。

それから半年後、カリムが許嫁との婚約を破棄にしたと言ってきた。
あんなに仲が良かったのに。なんでそんな事を。そう問えば、
あいつは許嫁だけど、俺の大切な友達でもあるから。だから、本当に好きな人幸せになってほしいんだとカリムはあの屈託のない笑顔を見せた。
「本当はさ、ずっと前から気づいてたのかもしれない。あいつが誰を好きかなんて。でも決まり事だし、あいつも納得してるし、結婚なんてまだまだ先だし、何とかなるって思ってたんだ。でも、もうやめた。俺の方から、やめた。俺もあいつも、お互いを好きだけど。違うんだ。俺たちにあるのは友愛なんだよ。」
だからさと続けたカリムに、息がつまる。その顔がいままでに見たことない程真剣だったから。
「だからジャミル、もう間違えんなよ。」
なにを、なんて、聞かなくてもわかる。
「…やっぱり俺、お前のこと大っ嫌いだね。」
「そんな事言うなよ〜!俺は大好きだぞ!」
辞めろ気持ち悪い!そういってカリムを手で払う俺だが、昔のように胸が苦しい事はなかった。この変化を、なんと呼ぶのか。
まだ、俺は知らないフリをしたい。

「あ!ジャミル笑った!」
「うるさいバーカ」

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