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▼ あなたに贈る特別な花

「なあ、今日って何の日か知ってる?」

放課後、部活後恒例の自主練後、そいつはおもむろに呟いた。
いつもの飄々とした態度ではなく、目も合わせず、そこには何もないぞ。っていうような場所を見ながら話しかける姿は、すこし緊張している様に見えた。

そういえば、朝から様子が可笑しかった気がする。
ソワソワしてたし、チラチラとこちらに視線を向けていた、気がする。
気のせいかな。と思っていたが…。

「…さぁ。わかんない。」

そう返答すると、あいつは「はっはーん!今日はアポロ11号が月面着陸した日でしたー!」と、馬鹿にしたように笑い「あばよ!」っと捨て台詞まで吐いて岩泉の方に走り去ろうとするもんだから、私はその背中に「及川!」と声をかけた。

「なんだよ。」
少しいじけたように振り返る及川に「今日ちょっと寄りたい所あるんだけどいい?」と言えば、「仕方ないから付き合ってやってもいいよ。」なんて言うもんだから、ムカついてバレーボールをその頭に投げつけた。


「俺用事あるから。じゃあなミョウジ。クソ川。」
いつもは自主練後、三人で話しながら帰るのだか、今日は岩泉は用事があるからとさっさと一人帰ってしまった。まぁ三人のうち誰かが用事があって先に帰る事はたまにあるので、「おつかれ。」と手を振って岩泉を見送った。クソって言わないでなんて横でなにか言っているが、私も岩泉もスルーだ。

「行こうか。及川。」
「で?どこに行くんだよ。」
「いやなんかさぁ。今日花火大会があるらしいんだよ。ちょっと見たいじゃん花火。」
「…なるほど。」
「もしかして花火嫌い?」
「いやそんなことないけど…。」
「じゃあいいじゃん行こ。そういえば小さいころは手持ち花火がこわくてさぁ…」

線香花火が好きだの蛇玉が苦手だの、ロケット花火を手にもつ友人がいるだの、なんてことない話をしながら歩いた。
及川はいつも、さりげなく自身が車道側に行き私を歩道側に歩かせる。中学一年の時から、三年間ずっと。及川とはそういう男なのだ。 

「ついた。」
河川敷で立ち止まれば、及川も足を止める。
「ここから見えんの?」
「うん去年ランニング中に見えた、気がする。」
「気がするかよ。」
やっと笑った及川に、「ねえ及川――――」と声をかけようとしたその時

一筋の光と、風を斬る音。そして、体の芯まで響く爆発音。

「すご!穴場じゃんココ。ミョウジでかした。」
そういって、花火の光を反射させながら笑う及川を見ると、なぜだろう。心臓がすこし、ソワソワした。

今日が何の日かなんて知っている。
及川徹の誕生日だ。
部活終わりにでもおめでとうとプレゼントを渡すつもりだったのに、『なあ、今日って何の日か知ってる?』なんて及川が珍しく落ち着きなく聞くもんだから、すこし意地悪してやろう。そんな軽い気持ちで忘れたフリをした。
それをいま、私は後悔している。なぜかはわからないけど、おめでとうとプレゼントを渡す事が、気恥ずかしく感じた。なんでた。誕生日を祝うだけじゃないか。

「あー…。及川。タンジョウビオメデトウ」
硬くなった言葉と、小さい包みを差し出せば、及川は驚いた顔をしたあと、にやー。と効果音が付きそうなほど口角をあげた。
「へー。ふーん。ほー。」
「…ちょっと、なんかムカつく。返してよ。」
ニヤニヤと包みを色々な角度から見る及川に、なんだがさらに気恥ずかしくなり、包みを取り返そうと手を伸ばすも、その手は届かない。
あれ、いつのまにこんなに。
「だめ。返さない。」
私の手を掴んで、さらに口角をあげる及川に、ついに私の顔に熱が集まる。
暗闇と花火の光で、顔色が分からなくてよかった。
いま、私も及川も、花火の綺麗な青色に染まっている。
「ありがとミョウジ。な、来年もさ、来年も一緒に」

花火の音にかき消されないように、及川は大声でそう言った。









「来年も一緒にみようって、言ったのにな。」
「あ?なんか言ったか。」
「なぁーんにも。ってか岩ちゃーん。炭水化物食べすぎじゃない?」

あれから一年。変わらずに及川はバレーボールを追いかける日々で、変わらずに岩泉と過ごしている。
変わったのは、自身を覆うものが、北川第一のジャージから、青葉城西のジャージに変わり、そして、隣に彼女がいない事。たった、それだけの事。

「うるせぇ。腹減ってんだからしかたねぇーだろ。ちゃんと野菜も食う。」
たこ焼きと焼きそばとお好み焼きを手に持つ岩泉に、及川はついつい頬が緩む。
この相方の存在に、俺はどれだけ救われているんだろうか。
「はー岩ちゃん、俺岩ちゃんの事ちょー大好き。」
「気持ちが悪い。」
「ちょっと!しっかり言うのやめてくれる!?」

ミョウジとの関わりが切れてから一年。
たった、一年だ。毎年待とう。この花火の下で。
きっと、いつかまた一緒に花火を観れるから。

生憎と、さっさと諦められる程簡単な気持ちじゃない。
まだ、伝えてすらいない。

この特別の花の下で、俺はずっと待ち続ける。


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