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▼ 蝶よ、花よ。3



カナエの綺麗な瞳が好きだった。
カナエの艶やかな黒髪が好きだった。
カナエの鈴の様な声が好きだった。
カナエの柔らかなのに真のある性格が好きだった。
カナエの全てを、愛していた。


雨粒が、私に降りかかる。
ずぶ濡れになった髪は頬に張り付き、水分を含んだ羽織りはずしりと重い。
天を仰ぐと雨は止みそうになく、それどころかさらに勢いをます。

瞳を閉じると、まつげにのった水滴がまるで涙のように滑り落ちた。

カナエが、死んだ。
嘘よ。信じない。だって昨日まですぐ近くに、私の腕の中に、彼女は、彼女は。
頬を触ると、くすぐったそうに笑うカナエの姿がいまでも目に焼き付いている。
真っ白な彼女の背中に、何度も何度も赤い欲をつけたのは、つい先日のことだ。

「本当に…ひどい世界よね」
カナエを探しても、もうこの世界のどこにもいない。
私を呼ぶ声、見つめる瞳、重ねた唇、全て愛らしい愛しい子。

私の愛した人はもうどこにもいない。


「あらあら、そんなに濡れて。風邪をひきますよ。」
背後からかけられた声に、私は驚いて振り返る。
「カナッ…しのぶ、ちゃん…?」
「雨の中そんな所に居ちゃダメですよ。はやく中に入ってください。衣服も着替えて、体を温めて。」

形のいい唇をあげ、目尻を下げた笑顔を貼り付けるしのぶちゃんの姿をみて、私はついに涙を流した。
ああ、なんて、なんて強くて悲しい子。
気づけば彼女を抱きしめていた。
いつものしのぶちゃんなら『辞めてください!』と怒ったはずだ。
しかし彼女も、先程まで浮かべていた笑みを崩し私の背中に腕を回す。

二人で強く強く抱きしめあった。
掴んでいないと、この世界から落ちてしまいそうで。
私たちの泣き声は雨の音に消されていく。

しのぶちゃん、私たちおそろいね。
あの子がいないと、独りでは立ってられない。
震えるしのぶちゃんを強く抱きしめ、私は誓った。
鬼を斬ろう。1匹残らず。
鬼風情が、私たちのカナエを視界に入れたこと、認識したこと、殺したこと、許さない。絶対に、許さない。



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