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▼ それは小さな花

上空2千フィートに、巨大な雲が浮かんでいた。
巨大な雲が覆うは、超弩級巨大飛行船『トルバドゥール』

今日は、いや今日も、その住人は暇を持て余していた。


「クイーン、そろそろ仕事をしてください。前回の仕事から何日経ったと思ってるんですか。」
短髪で鋭い目をした青年、ジョーカーは、もう何度目かもわからない言葉を口にした。

「やれやれだよジョーカー君。見てわかるだろう。私は忙しいんだ。」
クイーンと呼ばれた人物は手をひらひらとだけ振替し、ジョーカーの顔をみずに答える。
クイーンの顔はネコのおなかに沈み、体はソファーにあおむけに転がっていた。

「それのどこが忙しいんですか!ソファーに寝転んでごろごろしてるだけじゃないですか!」
「ちっちっち、ジョーカーくん、私はただ寝転んでいるわけじゃない。今私が顔をうずめている猫ちゃん。彼女は今ノミ取りが終わったばかりなんだ。そんな彼女のこの豊満なお腹に顔を埋めるのは、自然の摂理だと思うけどね。」

そんな事もわからないのかい?と、顔を上げわざわざジョーカーに見える位置でため息を吐く仕草に、ジョーカーの堪忍袋の緒が切れた。

「いいかげんに…!」
『お取込み中すみません。』

大股でクイーンに近づこうとしていたジョーカーの動きが止まる。
天井から聞こえた声…世界最高の人工知能『RD』の声に、彼は視線を上にあげる。

天井に付けられたカメラが申し訳なさそうにくるんと一周した。
『今現在。何者かにトルバドゥールがハッキングされています。』

まるで今日は雨だね。と日常会話のように告げるRDに、ジョーカーは怪訝な顔をする。
「冗談でしょう。RDにハッキングなんて、できるわけがない。」

このジョーカーの言葉は、過大評価でも身内贔屓でもなんでもなく、事実を言っているだけだった。
倉木博士の作った世界最高の人工知能に、ハッキングをできる物がいるわけがない。
これが、ジョーカーだけでなくクイーンにとっても常識な事だ。

『もちろん、ただハッキングされたわけじゃありません。』
「じゃあどうして」
「RD…君、そのハッカーを進んで受け入れたね?」

クイーンの確信をもったいい方にRDは『流石ですね。』と返した。
この状況を理解できていないのはジョーカーただ一人。
そんな状態の彼は、手を挙げて発言の許しをこう。

『はいではジョーカー君』
まるで小学校の先生のような口調のRDの冗談を無視してジョーカーは質問する。
「どういうことですか。ハッカーを迎え入れたとは、RDの管理システムの故障ですか?」
「やれやれパート2だよジョーカー君。そんな故障あり得るわけないだろう。客人を迎え入れたのなんて理由は一つだ。そのハッカー、RDのお友達だね?」

クイーンの言葉に、ジョーカーはさらに困惑した。

『説明します。今現在私の記憶媒体を走り回ってるウイルス…これは“bloom”』
「bloom…?」
「花、または開花という意味があるね。」
『クイーンの言う通り、このウイルスは開花します。相手の媒体に張り込み、そこで開花。開花した花は種子をとばし、さらに奥で開花…これの繰り返しです』
「それはつまり…?」
『つまりジョーカー、このウイルスに一度かかれば、一瞬のうちに満開…すべてにウイルスがいきわたるという事です。』
「ふむ。ではRD。君はそのbloomを知っていて、なおかつ自分からその訪問を受け入れた。という事は何も心配はいらないって事だろう。」

自身の城が今この時もウイルスに侵されているというのに、クイーンは焦ることなくソファーの下に隠しておいたワインを取り出す。

『はい。このbloomを操る人物は私の“親しい友人”です。世界にただ一人…あの子しかbloomは操れませんから。』
「そのRDの知り合いとやらはなんでこんな事を…?」
『…おそらく、なんですが。』
RDは言いよどんだ後、意を決して、自身の手(機械のアームだが)を操り、クイーンを指さした。


『理由はあなたです。クイーン』

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