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「おお…」

綺麗にパンケーキをひっくり返すヤウズに、私は拍手をする。
「無表情の拍手って、なんか怖いな。」
「失礼な。心からの拍手だよ。」
「表情筋死んでんじゃねーの。」

さらに失礼なことをいうヤウズに膝カックンを食らわせてやろうかと思ったが、彼は火を扱っているのでそれはいけない。
無言で不満を表せば、「皿。」とあっけなく無視され、挙句に皿を出せと要求までされた。
だがしかし彼にパンケーキの作り方を教わっている身としてはここは従うのが筋だろう。

「っていうか、本当にパンケーキでよかったわけ?混ぜて焼くだけなんだけど。」
「RPGだってレベル上げが肝心でしょ、それと一緒。」

私の言葉に、そうか?と首を捻りながらも、ヤウズは果物をスライスしていく。
「ほら、切れ味いいだろ。」
きらりと光るシルバーのそれを反射させるヤウズに、私は曖昧に頷く。正直普段料理をしないので、その包丁がそんなにすごいのかわからない。
そんな私に気づいたのだろう、ヤウズはため息をつき、その果物をパンケーキにのせていく。

「さっき作った生クリーム、搾っておしまい。やる?」
「搾るくらいならできる。」
「どうだか。」
口角をあげるヤウズにみてろよと言う用にまゆ尻を上げ、私はヤウズが作った綺麗なパンケーキに、生クリームをのせる。
「…」
「…搾るくらいなら、なんだって?」
「…搾るくらいならでき…ぬ。」
「…ふはっ!」
いびつな形になったクリームをみて答えた私に、肩を震わせていたヤウズは、ついに噴き出してしまった。

「は、はは、腹いてぇ、なんでこんな、ふふ不器用すぎ…!」
噴き出すだけで飽き足らず、彼は膝から崩れ落ちるようにお腹を押さえて笑っている。
ひーひー笑うヤウズに、なぜだか腹は立たず、それ以上に年相応に笑う彼に嬉しくすらあった。
「貸して。」
一通り笑って、私から生クリームを受け取りヤウズは器用に生クリームをのせていく。
うーんお店で売ってる物みたいだ。
ふと、ヤウズの頬を見れば、笑い崩れた時についたのだろう、生クリームがついていた。

「ヤウズ、ここ」
その生クリームに手を伸ばせば
「!!触るなっ!」
伸ばした手を払いのけられ、その反動でガシャンと音を立てて、パンケーキが地面に落ちる。
「わ、悪い…。」
「私こそ、急にごめん。驚いたよね。怪我無い?」
手を払いのけられた私よりも、ヤウズの方が傷ついた顔をするものだから、気にしてないよと表現するため、私は落ちたパンケーキに手を伸ばす。
割れたお皿を集めながら、「パンケーキ、まだタネ残っているし、今度は私が焼こうかな。」と会話を続けるも、ヤウズからの返答はなかった。
無言で同じようにしゃがみ、割れた皿を私の手から自身の手にのせていく。
自分が集めるから、という意味だろうか。じゃあ私は床でも拭くかな。そう思った時だ。小さな、声が聞こえた。


「…悪い…触られるのは。苦手なんだ…。」
「こっちこそ、勝手に触ろうとしてごめんね。」
「…お前が嫌、とかじゃないんだ、本当に、ただ、俺が…俺がダメなんだ。」
「ヤウズはダメじゃないよ。」
「違う、ダメなんだ普通じゃない。…殺しそうに、なる。俺は一生、普通になんてなれないんだ。」

今目の前にいる少女の、白くて細い腕を見つめる。
0.2秒だ。それだけあれば、俺はこの腕を折ることができる。
忘れていた、自分がどんな人間なのか。
俺はきっと無意識に攻撃をしてしまう。
ヤウズの頭を、そんな言葉が埋め尽くす。


黙ってしまったヤウズに、ダメだとわかっていても、私はつい手を伸ばす。
びくりと肩を震わせた彼に、「大丈夫。」と言い聞かせ、その手で震える彼の背中をさすった。

「…離せよ…。」
「やだ。」
「なんでだよ…。」
「今離したら、ヤウズ、もう私と話してくれない気がするから。」
「…話聞いてたのかよ。俺は」
「大丈夫だよ。絶対に、大丈夫。」

大丈夫だと言い聞かせれば「怖くないのかよ」と、形のいい唇がかすれた声を出す。
眼があう。綺麗な瞳。純粋な瞳。


こわい?
人を殺したくないと、必死に訴える君を。
曇ることなく、純粋な瞳をした君を。誰が怖いと言うのだろう?
その言葉に答えず、背中をさすり続けるととヤウズは立ちあがった。

「…サンキュ。」

私の思ってることが伝わったらしく、少年は微笑んだ。優しい頬笑みだった。

「ほら。作り直すんだろ。さっきの俺のやり方特等席で見てたんだ。もう出来るよな?」
「…でき、ぬ。」
「出たよ!」
笑う彼の体はもう震えていなくて、私はほっと息を吐く。
「やればできる子かもしれないよ?伸びしろしかない。」
「言ってろ。」


もう一度焼いたパンケーキは、形が歪で、けれど味は抜群だった。

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