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▼ 冷酷な者

ギャーギャー騒ぐ皇帝さん達をあとにして、私はキッチンに足を運んだ。
どこに行くんだ!戻ってこい!積もる話があるだろうが!なんて叫んでいる皇帝さんは無視だ無視。
私の事を驚かすためにRDを脅した事、すこしは反省するがよろし。
 
それにキッチンに向かったのには訳がある。
長い髪の少年、彼に、ほんの少し興味が湧いた。
普段は他人なんて気にしないが、彼は、と、いうより彼のもつあの雰囲気が気になる。なぜだがわからないけれど。

『僕は、へいきだから。』

ふと、そんな言葉が頭に響いた気がした。
あれ、なんだっけこれは。誰が、言ったんだったか。
なんだか、懐かしいような、切ないような。
記憶力には自信があったが、どうにも思い出せない。うーん。気になるなぁ。

「こんにちは。」
そんなモヤモヤした気持ちを押し込め、キッチンにいた長髪の彼の背中に声をかけた。

「コンノチワ…あー、えっと、魔法使いさんだっけ?」
「ちょっとその名で呼ぶのはやめて…」
振り返って挨拶を返してくれる体が、その言葉に頭を抱える。
「なんでだよ。自分の仕事用の名前だろ?」
「いや周りが勝手に呼んでるだけで、自分からそう名乗ったことはないよ。ファンタジーチックで、恥ずかしい。」
「そうか?まぁ呼ばれ名なんて、なんでもいいだろ。個人を特定できれば。」
カチャカチャと音を立てて、並べられた包丁類をじっくり見る彼の真剣な目に、彼は皇帝さんの家の使用人、コックかなにかだろうかなんてぼんやり思った。
「まぁ、たしかにそうか。ところで、そんな君の名前なんて言うの?」
そう、問いかけた時。彼が、こちらに視線を向けた。

「ヤウズ。」
形のいい唇が、短くそう告げた。
ヤウズ…冷酷な、者。
その目を見た瞬間に、理解する。彼は、使用人なんかじゃない。クイーンさんや、ジョーカーと同類、“あちら側”の…人間。

「ヤウズ、か。よろしくね、ヤウズ君。私はミョウジ。ミョウジナマエ。」
「うっわ。君とか、なんか気持ち悪い。ヤウズでいいよ。」

そう口を歪めた彼の表情は、先程の射る様な瞳とはうってかわって、年相応の表情だった。

「ここ、いいね。使ってる調理器具も、食器も、全部が一級品。俺なんてじじぃの家でやっすい中華鍋つかってるから、すげぇ羨ましい。」
「トラバドゥールのものは、クイーンさんが拘って選んでるらしいからね。…まぁ私は料理をしないから違いなんて全然わかんないけど。この包丁の良さも正直よくわかってないし。」

そう言って、置いてある包丁を触れば、「はぁ!?」と挙げられた大声に驚く。
そ、そんな、大声出すキャラなんだ。

「お前、わかってない。これすげぇいいよ。絶対よく切れる。ちょっとなんか切ってみろよ。ぜんっぜん安物と違うから。」
「いやでも私料理全然できないし、っていうか切れればなんでもよくない?」
「はぁ!?じゃあお前が持ってるその箱!」
箱、と指差された自身のノートパソコンを、これ?と持ち上げると、ヤウズはそうそれ、とうなずき、「ネットにつながればなんでもいい、なんて言われたら違うだろ?」と言葉を続けた。
「違う。ぜんっぜん違う。一つのパーツを変えただけってスペックも速度も変わるし、その選んだパーツを組み合わせて使うことで…あ、なるほどそういうことか。」

ヤウズの伝えたかった事がわかり、私はなるほどと頷いた。
「うん、道具の性能はたしかに大事だな。理解した。」
「だろー?」
「と、いうわけで、私はその性能が高いという包丁を使ってみたい。」
「うんうん。…うん?」
「料理を教えて、ヤウズ先生。」

その素晴らしいという切れあじに、少しだけ興味が湧いた。それに、彼がどんな風に、どんな料理を作るのかも、少しだけ興味が湧いた。
そして彼はトルバドゥールのキッチンに興味がある。

これって、利害の一致じゃない?
そうニヤリ笑えば、彼は仕方ないなと笑った。その笑顔があまりにも可愛かったので、「全然冷酷な者なんかじゃないね。」と笑えば、うるせぇよ魔法使い。と、頭を小突かれた。


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