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▼ 二つ目

虹北堂をあとにして、松本スポーツ店、マッキーのお店、ファンシーショップ亀屋…と、
なじみのある店を一通り周り、そろそろ帰るかと空を見上げれば、いつのまにか空が黒とオレンジに染められていた。もう、黄昏時だ。

スマートフォンを操作して、RDに【お迎えお願いします。】とメッセージを送る。
“いつもの”コンテナの場所に向かう途中、もう一度だけ商店街を振り返る。
一人暮らしをするようになってからなので、たったの3年程の付き合いだったが、
この暖かい商店街が好きだった。
もう二度と来れないわけではないが、卒業したら、もう帰り道のコロッケの匂いも、「おかえり」と声をかけてくれる人たちも、全部卒業なのだ。
少しだけ、寂しいなと思った。その気持ちをごまかすように、二つ目のキャンディーを口に放り込んだ。


「ただいまです。」
トルバドゥールに戻ると、RDが『おかえりなさい。』と声をかける。
「あれ?RD一人?二人は?」
『…それが、その…ちょっとやっかいな事になりまして…。』
「やっかいな事?」
『ええ。実は…ちょっとクイーン!?ああ…すみません!少しだけまっててください!』
「…忙しそうだね。」

RDは自身のデータを飛ばすことができる為、私と話している今この時にも、小さな人形にカメラとスピーカーを搭載して、クイーンさんとジョーカーに同行しているのだろう。

落ち着いたら聞こう。プツリと回線が切れてしまった天井のスピーカーとカメラにがんばれ。という意味を込めて手を振り、ソファーにいた猫ちゃんを撫でる。

「にゃあん」
「…子猫以外がにゃあとなくのは、人間に甘えているときだけと聞いたが、君は私に甘えてくれているのかい。」
そう言って喉元を撫でれば、ゴロゴロと気持ちよさそうに目を細める猫ちゃん。
「ふふ。そうだ、名前を付けてあげよう。」
にゃあ?と首を捻る猫同様、私も首を捻る。うーんどうしよう。せっかくなら強そうな名前がいいな。
「よし、君の名前はキングドラゴン号だ。」
にゃあ…。すごく嫌そうにしっぽを下げる猫に、私はうなだれる。
「嫌なのか…。」

キングドラゴン号(仮)を膝に乗せ、私はぼんやりとソファーに腰掛ける。
シンと静まり返ったトルバドゥールは初めてで、広い船内が、さらに広く感じる。
最後のキャンディーを食べよう。そう思ってポケットに手を入れた瞬間、

「お邪魔しまああああああああす!」

やけに大きく、元気な声に肩がはねる。
RDがいない今、トルバドゥールに人が入れるわけがない。
猫をソファーに降ろし、私はすばやくノートパソコンを立ち上げる。
前にトルバドゥールに侵入したBloomを駆使し、いま、この飛行船は私の体の一部にする。ハッキングの痕跡はなかったが、この人物はどうやってトルバドゥールに入ってきたんだ?監視カメラを起動するも、その姿を確認する作業は間に合わない。

足音が、目の前までせまっていた。さあ、どこからでもかかってこい。




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