▼ ジョーカー君!
「いいですか?今のあなたはここの生徒。留学生のジョーカー君です。」
「いや…あの…流石にコレは無理が…」
「大丈夫ですよ。ここ生徒数多いし、今は文化祭の準備で慌ただしいですから。みんな他人に構ている暇はないですから。」
「…。」
本当かよ。そう目線で訴えるジョーカー君に、私はいいから!と無理やり鞄から取り出した伊達メガネを付ける。
「うーんだめだ。眼鏡だけじゃイケメンが隠せない…。」
「いけ…」
ナマエの言葉に、面と向かって容姿を褒められる事がないジョーカーは、反応に困る。
「マスクもつけよう。」
鞄からマスクを取り出すと、「あなたの鞄は何でもはいってるんですか?」と聞くジョーカーに「四次元ポケットだよ」というと不思議そうな顔をされた後、東洋の神秘ですね。と片付けられた。
「とにかく、行こう。」
なんとかイケメンオーラを封印したジョーカー君の手を引っ張って、私達は屋上を後にした。
◇
校庭、教室、食堂…
順場に回ってジョーカー君に案内する。
「ナマエ先輩!」
最後に文芸部の部室に顔を出せば、すごい形相でパソコンに向かう岩崎さんが顔を上げる。
「やあ。準備の具合はどうだい。」
「なんとかみんなの暴走を抑えて、雑誌の販売に落ち着きましたが…一人一冊本を出すことになって…しかも!完全新作!今一生懸命制作している所です。」
力なく微笑む岩崎さん、一年生にして苦労をしている…。
「忙しい時に邪魔してごめんね。もう行くよ、これみんなで食べて。」
先程購買で買った差し入れのお菓子を渡して、そう伝えると、岩崎さんだ「気にしないでください」とほほ笑んだ。
「そろそろ休憩をしようと思ってた所なんです。だから気にしないでください。…あれ?その人は…?」
ジョーカー君を見て、首をかしげる岩崎さんに、クラスの留学生だよと答える。
ジョーカー君はペコリと頭を下げた。
「あ、そうなんですね。私岩崎亜衣です。…あの、どこかで、お会いした事ありましたっけ…?」
「ないです…。すみません、僕用事がありました。」
「え、あ、ちょっと。」
ジョーカー君に手をひかれ、私は引きずられたまま岩崎さんに手を振った。
「…知り合い?」
「…そのようなものです。」
岩崎さん…普通の高校生だと思っていたけど、何者なんだろう。…もしかして、なにかやっかいな事に巻き込まれてるのかな。
「へくしゅん!」
その時とある館の、とある名探偵がくしゃみをした。
◇
「もう夕方だ。」
「結構時間がたちましたね。」
暇な三年生がまわっていると、いい試しだ!と何人かの生徒につかまり、完成前のミラーハウスだのお化け屋敷だのに突っ込まれ、感想を求められたり、試作品のたこ焼きなどを口に突っ込まれ感想を求められたりと、なかなかに時間がかかった。
「今日はどうでした?ジョーカー君…もう眼鏡もマスクも学ランもとったので、ジョーカーさんか…」
ジョーカーさんに問えば、彼は相変わらずの無表情で「いい経験でした。」と答えた。
全然笑わない彼に、迷惑だったか…と肩を落とすと、それを見たジョーカーさんは「あの」と言葉をつづけた。
「すみません。僕は、笑う事が出来ないんです。」
「え…?」
「それに、最初の時も。不快にさせてしまってすみませんでした。…子供だと見くびったわけじゃなくて…その、クイーンといると厄介な人達に狙われる事が多くて」
「…心配してくれてたって事、ですか…?」
「…。」
なんて事だ。私は心配してくれた相手に、勝手に子供だからとバカにされたと勘違いして、笑わないからと私の事が嫌いだと決めつけて…。
「すみません、私」
「いえ、そう思われる僕に問題がありますから。それに」
「?」
「今日はありがとうございました。」
微笑む事が出来ないといったジョーカーは、その通り相変わらずの無表情。
だけど、いつもより雰囲気が柔らかく感じたのは、私がジョーカーを苦手だと思っていないからなのか。
「…ねぇジョーカーくん。」
「なんですか?」
「高校生は、寄り道をするんだよ。」
そういえば、彼は少し目を見開いて「行きましょうか」と歩き出した。
そんな彼に私は微笑んで「虹北商店街に行こう。」と隣にならんだ。
「…今日は、楽しかった?ジョーカー。」
「…ええ。楽しかったです。ナマエ」
その日はトルバドゥールに戻ると、クイーンさんが嬉しそうに笑っていて
なるほどクイーンさんにしてやられたなと理解した。
今度、お礼になにかご馳走してあげようかな。
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