▼ 君はプリンセス
「…ありがとうございます。」
「いえ…。」
お弁当を持ってきた彼…ジョーカーさんは弁当を渡した後、すぐに戻るでもなく立ち尽くす。
「…えっと…。」
なにかお礼をまっているのか…?
ジョーカーさんを見ると、キョロキョロと校舎を珍しそうに見渡していた。
…もしかして?
「ジョーカーさん。お昼はもう食べた?」
「…いえ、RDから、お弁当を渡されました。」
…さすがRD、私の行動なんてお見通しか…。
「ジョーカーさん。一緒にお昼、食べない?」
「…ぜひ。」
相変わらずの無表情。余計なお世話だったかな。
屋上に行こう。そう言うと彼は「僕は入っていいんですか?」と怪訝な顔をした。
「大丈夫大丈夫。」
「そうですか…」
屋上に向かう途中、何人かの先生に「ミョウジ、そちらは?」と聞かれたが、
親戚です。今日急遽3者面談があるんです。
と、堂々と答えればみんな納得したように「そうでしたか」と挨拶をして去っていった。
「やっぱり部外者はダメなんじゃないですか。」
「堂々としてればばれないもんですよ。」
立ち入り禁止の看板を無視して私は屋上の階段を上る。
「立ち入り禁止って書いてありますけど…」
「立ち入ってるのがばれなきゃ大丈夫。」
私はポケットから屋上のカギを取り出した。
「…いいんですか?」
「怪盗に言われたくはないな。」
「…。」
◇
『クイーン。なぜジョーカーに届けさせたんですか?』
「一緒に住むなら、仲がいい方がいいだろう?」
優雅にワインを飲みながら、クイーンは微笑んだ。
「RD、よくありふれた物語の法則を知っているかい?」
『法則?』
「そう。昔話の法則だよ。ある国のお姫様はね、小さい頃、一人の青年に出会うんだ。
たった数時間の出来事。しかしお姫様は、その青年が忘れられない。こういった物語、最後はどうなる?」
『再びめぐり逢い、恋に落ちますね。運命の相手との出会いだった。という物語はよくあります。』
「そう。素敵な法則だよね。」
『?』
突然ラブロマンスを語るクイーンに、RDは困惑するも、クイーンとはそういう人間だったとRDは無理やり納得する。
「ナマエ君は、プリンセスさ。」
クイーンのつぶやきは、RDには聞こえなかった。
◇
「いい天気だね。」
「そうですね。」
「…」
「…」
二人で屋上に座り、並んでお弁当を食べる。
お互い口数が多い方ではないので、静かな食事。
遠くで騒ぐ生徒の声が聞こえる。
空はとても青く、風が気持ちいい。
「…午後、さぼっちゃおうかな。」
「…授業は出たほうがいいんじゃないですか?」
「でも今日は残りの時間は、自習だしなぁ。文化祭前で、自習という名の文化祭準備なんだよ。」
「ブンカサイ?」
「学校のお祭りみたいなもの。」
「ナマエは準備に参加しなくていいんですか?」
「うん。三年生は参加自由だし。部活にも入ってないしね。」
「そうですか。でもせっかくの高校生なのに」
その言葉に、私はなるほど。と納得した。
思い出すのは校舎を珍しそうに見るジョーカーさん。
大人しく屋上までついてきて、弁当を食べるジョーカーさん。
もしかして彼は、学生生活というものに興味があるのかもしれない。
彼が学生だった時代があるのかは謎だが、今日のジョーカーさんの行動を見て、私はそう確信した。
「…ねぇジョーカーさん。一緒に学生になっちゃおうか。」
「え?」
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