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▼ 隣の彼

インハイ予選が目前まで迫っている。
相当な練習をしているのだろう。
澤村と菅原は、毎日朝ギリギリにクラスにくる。
朝練が大変なんだろうなぁ。

「おはよう。澤村。菅原。」
おはよ。はよー。とそれぞれから返事が返ってくる。
着席した澤村に、「ねぇ。」と声をかけた。
澤村とは、今月から席が隣だ。
「良いことを教えてあげよう。」
「え、なに。」
「今日、澤村の前の席の子が休みなんだ。なので今日、澤村は数学の時間にあたるよ。」
澤村が嘘だろと嘆いた。
なぜ成績の悪くない澤村が嘆くのかと言うと、
数学の先生は毎日一問、席順で問題をだす。
その問題が結構の曲者で、予習なしでは難しい。
答えられないと宿題がだされるのだ。なんとも非情なシステムである。
私たち3年4組は特進クラスだ。
進学を目指す人が殆どだ。
澤村は部活の主将でさらに特進クラス。すごく努力をしているんだろう。インハイが始まるいま、宿題が一つ増やされただけでも、かなりの重荷になるはず。

今日は一限から数学なので、澤村は急いで教科書を広げていた。
「はい。」
そんな彼の前にノートを差し出せば、彼は困ったように笑う。
「すまん…ありがとう。」
「時間があれば澤村には解ける問題だし、今回は運がなかったから仕方ないよ。まぁでも私が今度困ったら助けてね。」
にやりと笑った私に、再度ありがとうと笑った澤村。

いいなぁ。こんなに一生懸命バレーに打ち込めて。
そんな嫉妬がうずいたが、私はその気持ちに蓋をした。
多分この気持ちは一生消えない。けれど、私は前に進みたい。

「ねぇ澤村。インハイ予選、応援には行けないけれど。勝って欲しいと、思っているよ。」
努力してる澤村を近くで見て、そう思わない人はいるんだろうか。少なくともクラスメイトはみな、澤村たちを応援している。
窓の外に視線を向けたまま言えば、
澤村は、おう。と力強く答えた。

わたしは友として、この人たちを応援したい。
…インハイ予選。あいつも当然、出場する。
青葉城西 及川徹

彼もきっと、澤村の様に頑張ってる。近くにいなくたってわかる。
バレーに誠実で 仲間思いで 勝利に貪欲
及川徹はバレーでできてる男なのだから。

中学3年間、神童牛若によって遮られた全国への道。絶対に高校に行ったら、牛若野郎をぶっ倒すんだ。まだ幼さが残る顔を、涙でグジャグジャにしていた及川の姿を思い出す。

願わくば、彼と同じように、私もボールを追けたかった。

「ノートありがとう…って」
こちらを振り向いた澤村が、慌ててノートで私の顔を隠す。
「…先生、そろそろくるから。保健室いくなら伝えとく。」
澤村の気遣いに、私はいまそんなにひどい顔をしてたのかと困惑する。

「ははは、元気元気。ちょっと考え事してた。」
「そうか…」

最後に、ポンと頭に手を置かれ、澤村はそれ以上なにも聞いてこなかった。
ほんと、優しい人だよ。


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