たとえ届かない人だとしても | ナノ
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▼ ┗風柱 不死川実弥 その弐

師範のもとで柱稽古が始まってから、数日がたったある日の事。
死にそうになりながらもなんとか、かろうじて、ギリギリと生きている私達の前に見知った顔が現れた。

「炭次郎!…と、後ろに抱えているのは善逸…?」
「ナマエ!ああ、さっき逃げ出そうとしている所に遭遇したんだ。」

久しぶりに見た炭次郎に自然と笑顔になるが、彼の言葉を聞いてその笑みは苦笑に変わる。
「善逸はまた逃げ出そうとしたんだね。」
彼の脱走はこれで計3回目だ。(内2回は敷居から出る前に私に止められている。)
なぜ彼は気絶を…?
詳しく聞くと、師範に連れ戻されたらしい。善逸はある意味命知らずなのかもしれない。





善逸も目を覚まし、地獄の訓練を再開した数時間、やっと本日の休憩に入った。
まだ初日の炭次郎はきっとどこに何があるかわからないはずだ。
説明をしようと炭次郎を探すと、廊下の方から師範の声が聞こえてくる。

「師──「しつけぇんだよ。俺に弟なんていねぇ」…っ」

能天気に声をかけようとしたが、聞こえてきた内容に、慌てて身を隠す。
そろりと覗けば、師範の背中。その向こうには玄弥がいた。

師範の言葉に深く傷ついている玄弥の表情を見て、私の心臓がギュッと締められる。
ちがうの玄弥、師範は本当はそんな事思ってない。
君が大事で、とっても大好きだから…大切な“弟”だから、だからこそ師範は…。

玄弥の気持ちはわかる。彼は鬼狩りとして大好きな兄の力になりたいんだ。
けれど師範も、大切な弟だからこそ、鬼と無縁の世界で生きてほしいんだ。
鬼狩りは、いつ死ぬかわからない死と隣り合わせの世界だから。

お互いを思い、だからこそすれ違う二人に苦しくなる。

玄弥に冷たい言葉を投げかけながら背を向けた師範。
玄弥からは見えない師範のその表情を見て、私は咄嗟に柱に隠れた。

なんて、哀しい顔をするの。
伏せられた目は、悲しみを帯びていて、
深く刻まれた眉間からは、大好きな弟を拒絶する苦悩が見えた。

あの悲しみに一人で耐える優しい人を、いますぐ駆け寄って抱きしめたい。
でもそんな事は出来ない。師範が自らの意思で私に手を伸ばすまでは、だってそうじゃないと、師範は───


「そんな…俺…鬼を喰ってまで…戦ってきたんだぜ…」


玄弥の一言に、空気がかわる。
見開いた師範の目に、私の息が止まる。

まずい!!!!

動き出した師範に、私は柱の影から飛び出した。
 

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