たとえ届かない人だとしても | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ 恋柱 甘露寺蜜璃

「ナマエちゃん、体は大丈夫?」


霞柱様の修行を終え、善逸と次の恋柱様の屋敷に向かう途中、何度も善逸に問われた。
「大丈夫だよ」と答えても、善逸は不安そうに眉毛を下げるものだからこれからは善逸が寝静まってから鍛練をしようと反省した。
優しい彼に、心配してくれてありがとう。と伝えれば「ナマエちゃん…」と名前を呼んだあと、彼はなんでもない。と悲しく笑った。

「善…」

「ナマエちゃん!我妻くーん!」


なんでそんな顔をするの、そう聞こうとしたその時、聞き覚えのある可愛らしい声が私たちの名前を呼んだ。

「甘露寺様!」
「待ってたわ〜!」

嬉しそうに私と善逸の手を取り、ようこそと声を弾ませる甘露寺様に私ははっとして善逸を見るも、手遅れだ。彼は「ひょわあああああああ!」と奇声を上げ顔を真っ赤にしている。
遅かった…。女の私でも見惚れる甘露寺様だ。善逸なんて『コウ』なるに決まっている。
しかし、デレデレする善逸にため息をつくも彼の元気な顔が見れてほっとした。





甘露寺様に渡された服に着替えるが、これがまぁなかなかに恥ずかしい。
体のラインが出るからだろうか、他の男性隊員がチラチラとこちらを見ている。
女性が少ないので私みたいな女でも彼らにとっては頬を赤らめるには十分らしい。
「見てんじゃねえぞゴラァ!!!」と私の前に善逸がたち、威嚇するものだから、ありがとうとお礼を言えば、彼は「気を付けて!本当に気を付けて!!!」と私にも声を上げる。本当に彼は心配性だ。

音楽に合わせて体を動かし、体の柔軟を行う。
筋肉をほぐす為に甘露寺様が力技で手伝ってくださるものだから、何人かの隊員は地獄を見た。毎日柔軟していてよかった…。
叫ぶ隊員を横目に、私はひそかにホッと息をついた。

「休憩にしましょう!紅茶をごちそうさせて。パンケーキもあるのよ。」

ぱんと手を叩いて休憩を告げる甘露寺様に「手伝います」と伝え、一緒に炊事場に向かう。
「うふふありがとう。でも休んでて?」
「いえ、手伝わせてください。甘露寺様とも、お久しぶりに会えましたし。」
「…なんだかナマエちゃん、変わったわ。」
「ええ?なにが変わったんでしょうか?」
頬をほんのり桃色に染めて優しく微笑む甘露寺様に、私は困ったように笑う。
「なんだかね、うん、なんていうのかしら、なんだか雰囲気がね、うーんなんて言えばいいのかしら。恋してる女の子って感じ?」

甘露寺様の言葉に、私は思いっきり廊下で転ぶ。
スバン!と音がして倒れ、そして静寂。

「…。」
「…え?」

小さな声が聞こえ、再度訪れた静寂。そして…
「えええ!?本当に!?本当にそうなの!?きゃあ!どうしよう!ドキドキしちゃう!」
「違います!違います!違います!!!」

顔を真っ赤にする甘露寺様に、こちらも顔を真っ赤にして否定をするも、もうこんなの正解だと言っているようなものだ。落ち着け私焦るな私!!!

「わぁどうしよう私応援してるわ。話したくなったら話してね?」
キャーキャー言いながら走っていく甘露寺様に誤解です!!!と声を荒げ追いかけるが、「大丈夫よ!大丈夫!!」と嬉しそうな声が遠くから返されるだけだった。

炊事場につくと甘露寺様はすでに紅茶の用意を始めていて、その顔は嬉しそうに茶葉を蒸らしながら「うれしい。」とつぶやいた。

「私ね。とっても嬉しい。ナマエちゃんが恋をしていることが、大好きな人ができた事がとっても嬉しい。」

その笑顔が冷やかしなどではなく、優しい微笑みだった為、私は観念して「…ありがとうございます。」とその感情を認めた。

「私たちは、いつも命の危険が伴うから。だから、普通の女の子でいれる時間がとても大切なものよね。」
「…はい。本当に。」

私達は、明日にでも死ぬかもしれない。
そんな中で師範を好きになれて、そばにいられて。それがどんなにすごい事か、それだけで十分だ。
師範も私を、なんて。そんな願いは贅沢すぎる。

師範への気持ちは、きっともっともっと前から芽生えていた。
けれど蓋をした。こんな感情を持つのはダメだと自身に言い聞かせ
その感情が花を咲く前に蓋をした。
しかしもう止められない。一度開いた蓋はもう閉じない。閉じられない。

けれど、鬼の事、兄の事。やるべき事はたくさんある。

「…甘露寺様、私、大好きな人の為、鬼をたくさん倒します。」
「…そうね、頑張りましょう。」

そうだ、鬼のいない世界。
師範は、そんな世界で暮らすべきだ。
…たとえ、その未来に私がいないとしても。


「ナマエちゃん…?」

その日、ずっと作ってみたかったパンケーキを目の前にしても、私はなにも思わなかった。

prev / next

[ 目次 ]