たとえ届かない人だとしても | ナノ
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▼ 利用できると思った。



少し前から稽古をつけているガキが、高熱で寝込んだ。
まだまだ仕上がっていない体に、突然の過酷な稽古。潮時かもなと、不死川はため息を吐いた。

あの死にかけの女をみつけたあの日。
血溜まりの中、力なく息をする少女は、声も発せないが、その目が問いかけてる気がした。

胡蝶にまかせたその少女は、死にかけだったとは思えないほどの速度で回復をしていった。
しかし目覚めることはなく、かすかな寝息を立てている。
まだ幼さの残るその寝顔をみて、玄弥と同じくらいの年齢だと気づき、柄にもなくその少女の容態を気にかけた。ガキなんて、鬼殺隊になってから幾度も見てきたはずなのに。

血溜まりの中で自身を見上げたあの瞳が、なぜか頭から離れなかった。

「私も鬼を殺します。一匹残らず。不死川さん。私は一度死んだ身。あなたの、鬼殺隊の手足となります。わたしにもどうか、鬼を殺す術を教えてください。」
そして目覚めたと思ったらこれだ。
泣いてるだけの弱い存在だと思ったのに。

家族を殺され、強い復讐に燃えるその姿。
自身も家族を殺され、その復讐の炎に身を焼かれている不死川だからこそ、少女の覚悟がわかった。

使えるかもしれない。


玄弥には、鬼とは無縁の生活を送ってほしい。
その為には、鬼を狩る剣士が必要だ。
いままで継子なんて取らなかった。しかし、弟の、玄弥の為に利用する剣士として、この女を…

こいつは亡き妹の為に強さを
俺はもう二度と関わらない弟の身代わりを。

俺たちはあの日、ひどく歪んだ師弟関係を結んだ。
そうしてつけた稽古だったが、高熱で倒れる姿をみて冷静になる。
やはり相手は人を殴った事もない様な小娘。
やる気だけでなんとかなるものではない。

任務後、荷物をもって出て行けと伝えるため、そいつの眠る部屋に向かった。
ふすまの向こうからは、隠と話すあの女の声。


「ごほっ…ありがとうございます。でも、私は、あきらめません。鬼を斬りたい。一人でも多くの鬼を。私自身のこの手で」

死にそうな声に、襖にかけた手が止まった。

「いつも、ありがとうございます。あなたの鬼へのその気持ち、私が、受け取りました。こんな、高熱ごときで死にかけの姿で言われても…託し甲斐はないと思いますが。」

出ていけ、そう伝えるはずだったが、続けられた言葉に舌打ちをして、俺は部屋に背を向け来た道を戻った。


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