たとえ届かない人だとしても | ナノ
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▼ あきらめません。

体を休めなければ、そう思うも、ついに私は高熱を出し寝込んでしまった。
竹刀も握れない私を見て、師範はため息をつき私を米俵のように担ぎ布団に投げる。
「っ大丈夫、です!稽古できます!やらせてください!」
「黙れェ。くそ雑魚が。」
師範はそう言って、さっさと私の部屋から出て行った。
隠の方に来てもらい、看病をしてもらう。
そんな自分の情けなさに、高熱もあって泣きそうになる。
泣くもんか、もう泣かないと決めた。泣いてるだけで変わろうとしない人間ではいたくないと決めたんだ。

泣かないように眉間に皺を寄せる私をみて、隠の方が冷たい布を額にのせてくれる。
ありがとうございます。と礼を伝えようと目線を動かせば、ばっちりとあってしまったその瞳に反射的に視線を逸らす。
あの日以来、人の視線が怖かった、視線が、というよりも、自身を見られることが怖かった。思い出すは最期の妹の瞳。
その瞳が、私を攻めているようで、助けを求めているようで、呪って、いるようで。

「ぅ、おぇ」
込み上げてくる嘔吐感にあらがえず、私は隠の方の用意した樽に嘔吐する。
そんな私の背中をさすりながら、隠の方がつぶやいた。

「…ミョウジ様、失礼ですが、もう、いいのではないでしょうか。」
「いい、とは…なんの話でしょうか。」
朦朧とする意識の中、聞こえた言葉に問いかければ「わかっているでしょう」と小さな返答。
その声色から、その言葉がやさしさから来るものだとわかった。
なので、そのまま続けられた言葉に耳を傾ける。

「…私も、家族を鬼に殺されました。鬼が憎い…けれど私は鬼を斬れません。呼吸が使えないんです。けど、ほかに戦い方はあります。だから、だから私は…」

剣士ではなく、サポートにまわる。
それも、一つの鬼殺隊としての戦い方。

「ごほっ…ありがとうございます。でも、私は、あきらめません。鬼を斬りたい。一人でも多くの鬼を。私自身のこの手で」

妹が助けられなかった私の罪は消えない。鬼を斬る事でしか、私は救われない。
私の身を心配してくれたその言葉にお礼を伝え、背中をさする手を握る。

「いつも、ありがとうございます。あなたの鬼へのその気持ち、私が、受け取りました。こんな、高熱ごときで死にかけの姿で言われても…託し甲斐はないと思いますが。」

そう力なく微笑めな、隠の女性はポロポロと涙を流した。




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