たとえ届かない人だとしても | ナノ
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▼ 頑張りますから。

「これを着ろ。」
着替えたら中庭だァ。とさっさと出ていく後ろ姿にお礼を述べ、不死川さんに渡された、というよりは投げつけられた服に袖を通す。
不死川さんが前に使っていた鍛練用の着物らしい。
うん、動きやすい。

中庭に向かえば、今度は竹刀を投げつけられた。
え、まって構え方とか全然わかんない。

「行くぞォ。とりあえず、受けろ。」

受けろってなに!?不死川さんの打ち込みを受けろって事!!!!!??

「あのっ」
と声を上げた時にはもう不死川さんの振り下ろした竹刀が目前にあり、慌てて竹刀でふせぐ。
下段、上段、中段、次々に打ち込まれる竹刀をなんとか目で追い、防ぐ。
するとピタリと打ち込みが止まり、次は走れ。なんて言われるもんだから、大混乱だ。

後から教えてもらったが、ド素人の私の体力テストみたいなものだったらしい。
実に言葉足らずだ。でも私が受け止めれるスピードで打ち込んでくれた姿に、意外と優しい?なんて思ったが、この体力テストの後の訓練は本当に地獄だったので、私は自身の不死川さんへの認識の甘さを痛感した。


訓練後は私は風柱邸での家事を担当する事になった。働かざる者食うべからずだ。
最初の数日は、もともと風柱邸の家事をしていた隠の方にこの館の勝手を教えてもらいながら家事をこなす。
隠の方に言われた、毎日おはぎを作るというのは何だろうか。不思議に思いながらも、まぁ菓子作りは好きだしいいかと、深く考えずにせっせと作った。




不死川さんは夕刻になると鬼狩りに出で行くので、その時間は言われたとおりに体力の向上メニューをこなす。
昼夜の訓練の厳しさに、最初の頃は何度か熱をだした。
そして夜は助けを求める妹の夢。毎晩夜中に目が覚めるので、あまり休んだ気がしない。
私はこんなんで、師範に見限られないだろうか。
気分が滅入ると、よくない事ばかり考えてしまう。明日にでも見込みがないと追い出されるんじゃないか、そんな不安ばかりだ。
師範、私頑張りますから。絶対に鬼殺隊になって見せますから。
どうか、私を独りにしないで。

思い出すのは、血溜まりの両親、灰のように消えていく妹。
もう、家族は誰一人いない。
独りは、いやだ。帰る場所が、見つからないの。
黒い感情に飲み込まれそうになりながら、無理やりに目を閉じ、意識が沈んでいくのを待った。
 


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