たとえ届かない人だとしても | ナノ
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▼ よろしくお願いします

蝶屋敷に運ばれ、不死川さんに弟子入りをお願いしてから1週間が経った。
まだ本調子とまではいかずも、体は充分に回復した。

私を看病してくれた女性…胡蝶様は私の回復スピードに少し驚いてはいたものの、これから頑張ってくださいねと優しい笑みをむけてくれた。
蝶屋敷でお世話になっている間にみた胡蝶様は、朗らかで、優しい雰囲気をまといながらも、なぜだか少しだけ怖い…と感じていたが、退院時に見せたその笑みだけは、優しい笑みに見えた。

胡蝶様にお礼を伝え、日々私の世話をしてくれたアオイちゃんにも挨拶をし、その時に不死川さんの弟子になったと伝えればなんとも言えない顔をされたが、彼女は『気を付けてくださいね』と私の手を握ってくれた。
普段のハキハキとした口調じゃなく、その声色は震えているように聞こえた。
その姿が妹と重なり、頭をなでれば子供扱いしないでくださいとその手を払いのけられる。
元気そうでよかった。
…けれど私は、その瞳を真っすぐに見つめることができなかった。

言われた場所…風柱邸へと足を運び、不死川さんを探す。…いた。
中庭の目を閉じ、空を仰いでいる不死川さんの姿を見つけた。
なにをしているんだろうか。そう思った、その瞬間
風が、私の頬をかすめた。たらりと頬を伝う血で、斬られたのだと自覚する。

おそらく斬ったのは不死川さんだ。
おそらく、というのは、私には見えなかったからだ。
その太刀筋はあまりにも速く、正確で、私は目で追えなかった。

「…やめんなら、今だぞォ。」

気迫を見せる不死川さんに威圧されるが、こんな脅し、効くもんか。
「やめません!!今日から、よろしくお願いします!」

勢いよく頭を下げれば、不死川さんは刀を鞘にしまい、ついてこい。とだけつぶやき歩き出す。
「…!はい!」

その背中を追いかけ、私は歩き出した。


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