たとえ届かない人だとしても | ナノ
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▼ 傷だらけの天使


彼は不死川というらしい。
怖い顔をした彼は、怖い顔のまま
「あそこで何があったんだァ。」
と聞いてきた。

言ってもどうせ信じない。
当事者の私ですらよくわかってないのだから。

私は自分自身に言い聴かせる様に、状況を整理する為に、
掠れた声でポツリポツリと話し始めた。

あの日は私だけ、ふもとの町へ買い物に山を降りていた事。
突然の嵐で帰ることが出来ず、家に戻ったのが深夜になった事。
家に戻ると家族がみんな倒れていた事。
妹だけが、立ち上がっていたので、妹に駆け寄るといきなり襲われた事。
そして、太陽の光を浴びて妹が消えた事。

話すと本当に夢物語のようで
私は自分が本当にいま現実にいるのかわからなくなる。
けれどこの体の痛みが教えてくれる。
家族が、妹が死んだのは真実で、現実だと。

そういえば、なぜあの日私だけ町へ買い物にいったのだろうか。
あんな、嵐が来そうな天気だったのに。
そんな理由さえ、思い出せない。

「お前の妹は、太陽から逃げなかったってのかァ?」
黙って聞いていた不死川さんが、眉間の皺をさらに深めて問いかける。
その声に、靄のかかった記憶を無理やり片付け、「はい。」と返答をする。

「一瞬だけ、私から離れようとしましたが再度私に襲い掛かろうとしました。」
なんとか聞き取れるほどの声量で伝え、その言葉は自分自身に溶けていく。

そうだ、あの時あの子は太陽から一度逃れようとしたのではないか。
ではなぜ?なぜ太陽から逃げず、私を殺そうとしたのだろう。

不死川さんは少し考え込んだあと、私に全てを教えてくれた。

鬼殺隊のこと
鬼のこと
鬼舞辻無惨のこと

突然の非、日常的な話に頭痛がするが、すでに私の日常はもうあの夜壊れているのだ。


彼らは鬼殺隊、鬼を倒せるものたち。


「…なんで、…か。」
「あァ?」
「なんで家族を、助けて、く、くれなかったんですか!
貴方達がもっと、はやくきてくれれば……いや…もう、いっそ、あのまま私も、死にたかった!一人だけ、助けるなんて、そんな」
ここまで一気に声を発し、私は咳き込む。
喉が焼けるように痛い。けれどそれよりも、心が痛い。
なんて理不尽な事を言ってるんだろう。
助けてくれた人になんて事を言っているんだろう。

「悪かった。」
「な…っ」

なんで謝るの。あなたは悪くないでしょう。
まっすぐ私の目を見つめ謝罪をする不死川さんに、私は息を詰まらせる。
「…おまえの家族は、埋葬させてもらった。怪我が治ったら花でも供えてやれェ。」
「…………。」
「……。お前の妹は、お前を殺したくなくて、自分から死んだのかもなァ。」
「!」
「なんて、鬼がそんな事するわけねぇが、そう考えたらすこしはてめぇも救われるんじゃねぇのかよォ」



『おねぇちゃん。』


二つ下の妹は、いつも私について歩いた。
おねぇちゃんおねぇちゃんって私を慕ってくれる可愛い妹。
最後に私を見つめたあの瞳は、あれは紛れもなく、私の妹の目だった。


不死川さんは、やっぱり天使だったのかもしれない。
今の彼の言葉は、死を望むだけだった私の命の炎を吹き返させた。
まるで優しい風のように、不死川さんの言葉が体を包む。


「はやく治して家に帰れよ。おら、寝とけェ。」
「…鬼を、」
「あァ?」
席を立とうとする不死川さんの袖をつかみ、のどの痛みなど忘れ今までとは違う強い声で彼を引き留める。

「私も鬼を殺します。一匹残らず。不死川さん。私は一度死んだ身。あなたの、鬼殺隊の手足となります。私にもどうか、鬼を殺す術を教えてください。」

まっててみんな。
鬼を全員殺してから、会いにくから。

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