たとえ届かない人だとしても | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ お世話になりました。

俺が聞く。

それだけ言い残し、俺は部屋を後にした。
他の者もなにも言わないと言う事は、任せたと言うことだろう。


蝶屋敷につくと、あのバカ弟子は一人、庭にいた。
縁側に座り、蝶を指に留めている。
なにを呑気に。イラつき、おい。と声をかけようとするも、なぜかその言葉は喉に絡まり、言葉となって出てこない。

風になびく髪を手で押さえ、飛び立った蝶を見上げる姿。

いつからだ。
いつからあいつは、

ただの生意気な小娘だった。
強くなる為に俺を利用する、ムカつく女だった。
玄弥の代わりに鬼を狩る、ただのコマだった。
いつからあいつはあんなに。

『ちょ、ケガしてるじゃないですか!』
『死んでるように生きたくないんです。死んでるように生きるのは、生きてると言いませんから。』
『私は少しでも鬼を多く斬りたい。私や、師範のような思いをする人を減らしたいんです』
『そういえば、師範。私が目を覚さない間、お見舞いに来てくれました?意識を失ってる間、なんだか師範の夢を見た気がします。』
『でも、もしそうですねぇ。妹が生きていても、多分、私は鬼殺隊にはいります。だって…妹が平和に暮らせるように、鬼を倒さなきゃ。』
『会いたかったからです。』
『 師範…ただいま…です…。』

あんなに。


「師範、どうされました?」
立ち尽くす俺に気づき、バカ弟子はこちらに向かって走ってくる。
その姿に何故だか安堵し、俺はハッと鼻で笑う。
「なにしてやがんだァおい。いいご身分だなァ。呑気にチョウチョウとお遊びかァ?」
「いや!いやいやいやいや!違うんですよ!私いま、任務に出れないんです!禁止令が出てて!」
「…あぁ?」
「いま私、毒にやられてまして、その毒というのが、神経を麻痺させる効果があって…。いま任務に出ても、怪我をしても全く気づかない状態なんです。いまなら後ろから刺されても気付きません。明日には効果が切れるようなので、胡蝶様に、今日一日は任務も稽古も禁止されました。」

聞いてねぇぞ。
脳内で、あれ?言ってませんでしたっけと胡蝶が笑う。

「鬼を従える人間ってのは、お前のなんだ。」
まどろっこしいのは好きではない。単刀直入に聞けば、バカ弟子は兄です。とすぐさま答えた。
「ずっと、兄の存在を知りませんでしたけど。」
「どういうことだァ。説明しろォ」
俺の言葉に答えず、バカ弟子は自身の腕をあげ、袖をまくり、小さな怪我を隊服の下から覗かせる。
「なんだァ?言いたいことあるなら言いやがれェ。」
イラつく俺とは反対に、落ち着いた様子だった。
その姿に、なぜか俺に焦りが生まれる。

「…輸血してくれたの、やっぱり師範だったんですね。」
「だったらなんだってんだァ」
袖を直しながら、そういうことかと呟く姿は、さらに俺を焦らせる。なんだ。なにが言いたいんだ。

「師範。いままでお世話になりました。」
「…あァ?」
「私は鬼滅隊をやめます。」

そう言って、バカ弟子は微笑んだ。

prev / next

[ 目次 ]