たとえ届かない人だとしても | ナノ
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▼ 兄の心、弟は知らず。

 
「大丈夫!?全然姿を見ないから心配したの…!こんなに血だらけになって…!」
「すみません、甘露寺様…!」

自身も傷だらけなのに、私の心配をしながら甘露寺様は私と兄の間にたつ。
甘露寺様の太刀筋を避け、後ろに下がった兄は、「へぇ。」と笑みを浮かべた。

「おもしろい刀だな…身体能力も高い…。柱か?」
「あなた…鬼じゃないわよね。ナマエちゃんをこんなに傷つけて!何者なの!」
「ハッ。アホみたいに乳を曝け出して、頭の悪そうな女だな。」
「なななな!なにこの人!すっごく嫌!私嫌いだわ!」
「僕も、無惨様にたてつく鬼殺隊なんて大っ嫌いだね。」

シャン

不思議な音がして、兄の後ろにまた襖が現れる。
「ちっ。今度こそ本当に時間か。…じゃあね。ナマエ、いつか、絶対にお前は俺が殺す。でもそうだな…その前に、お前の一番大事な人を殺す。お前の目の前で、絶対に。」
「待っ…!」

甘露寺様の刀と、私の腕が兄に向って伸びるが、その二つは空を斬った。

「…なんだったの、今の人…人間よね?」
呆然と呟きながら、甘露寺様の体が崩れ落ちる。
「甘露寺様!」
「大丈夫、でもちょっと…疲れっちゃっただけ。ナマエちゃんが無事でよかった。炭治郎君達もね、みんな無事よ。みんなの所に行きましょ、ね。」
私の腕を握り、にこりと笑う甘露寺様に、先程まで冷えていた指が、じんわり暖かくなる。
「…はい。」

甘露寺様と支えあいながら、炭治郎達の所へ向かう。
しかし私は悩んでいた。
自身の腕、輸血の傷跡をみる。
いいのだろうか。私が、鬼殺隊にいて。
私は兄に呪いをかけられている、今思い出した記憶も、本当にすべてなんだろうか。
もしかしたら、いつか、いつか私は、私の大切な人たちを傷つけてしまうのではないか。

『お前の一番大事な人を殺す。お前の目の前で、絶対に。』

最後に兄の言葉が胸に刺さる。
私は、本当に鬼殺隊の一員と言えるのだろうか。










「だいじょうぶよかったねぇ。よかったねぇ」
「ね…ずこ、ちゃ…ん?」

フラフラの体で炭治郎達の所に向かえば、真っ先に目に入ったのはなんとこの太陽の下、禰豆子ちゃんがたっていた、なんと言葉まで話している。

「え、なんで。いや、うわ。」
気付いたら、目の前の禰豆子ちゃんを抱きしめていた。
抱きしめて、あふれ出した涙がもう自分では止められない。
「だいじょうぶ。だいじょうぶ。」
禰豆子ちゃんが私の頭をなでるせいで、それは更にあふれ出した。


あれから数日がたった。
炭治郎はあの日、またしても意識を失った。一週間ほど。
目覚めてからもりもりご飯を食べる炭治郎を見て思う。
こいつ、どんどん化け物並みの回復力になっていないか。

上弦の鬼と対戦していない私は、大きなけがこそないもの、骨折が何か所かあり、さらには神経麻痺の毒付きという事で、為蝶屋敷に居た。
数日前に伊之助も屋敷に来て、禰豆子ちゃんに自分の名前を覚えさせるのに必死だ。
…この禰豆子ちゃんを善逸が見たら死ぬのでは?

「ね、玄弥もそう思わない?」
「…知らねぇよ。」

ここ最近の私のマイブーム。それは玄弥の部屋に行って一方的に話をする事だ。

「そういえば玄弥って、鬼を喰べてるんだって?お腹恐さないようにしなよ。」
「お前は何目線なんだよ。」

あの晩から、玄弥は何だか話しやすくなった。
今までのイラつき、いや、焦りがなくなった様子だ。
…炭治郎のおかげかな。

「おいなに一人でにやにやしてんだよ、気持ち悪いな。」
「あ、そういえばこれお見舞い。はい。スイカ。好きなんでしょ。」
「でか!おい絶対おかしいだろ!見舞い品に一玉もってくるか!?」
「好物なんだし文句言わないでよ。」
私の言葉に、スイカをぺしぺし叩いていた玄弥の動きが止まる。

「…誰から聞いたんだよ。」
その玄弥の言葉に、私はため息をつく。
「君の好物を知っている人なんて、限られているんじゃないかな?」
「まさか…兄貴が?」
その言葉に私は返事を返さず、あのさ。と話をつづけた。
「玄弥、前に言ったよね。師範が私なんか認めるはずがないって。」
「…。」
「あの日、きつく当たってごめん。玄弥の言葉が図星だったから、八つ当たりした。…あの日も言ったけど、師範はさ、私の事、これっぽっちも認めてなんかいないよ。師範の気持ちは師範にしかわからないから、二人の事に私は口出しは出来ないけど…」

玄弥を見つめれば、ガラの悪い顔がこちらを見つめ返す。
…本当に、そっくりだな。

「私は玄弥より、師範との付き合いはうんと短い。けど、そんな私でもわかるよ。師範はとっても…とっても優しい人だって。…それは、悲しくなるくらいに。」
私の言葉に、ぎゅっと拳に力を入れ、顔を伏せてしまった玄弥の頭をなでる。
「なっ!」
「…ほんと、私は君が羨ましいよ。」
「意味わかんねぇよ!ガキ扱いすんな!」
「あはは。ごめんね。」
手を払いのけられるが、真っ赤な顔ですごむ玄弥は怖くなく、むしろ可愛くすらある。

…師範、この子が師範の一番大事な子なんですね。

「強くなろうね。玄弥。一緒に。」
「…ふん。当たり前だ。」

 

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