▼ きょうだい
烏に言われるまま走り続けると、里が見えてきた。
里のみんなは無事だろうか。
炭治郎はあの怪我だ、もしかしてまだ里にいるかもしれない。
色々な考えが巡るが、視界に異形をとらえた瞬間、私それに斬りかかる。
金魚のような異形が数体倒れるのを確認して、再度走り出す。
しばらく走っていると、頭上に影がかかった。
視線を上に向ければ、長い髪を月光に反射させ、特殊な形をした刀を構える甘露寺様の姿。
綺麗だ。
こんな状況なのに、場違いにも私はそう呟いた。
「甘露寺様!ここは私が!本体の方に向かってください!」
「ナマエちゃん!うん!わかった。お願いね!」
はいと答えた時には、もう甘露寺様の姿はなかった。
本当に、柱というのは…!
私も気合を入れて刀を握りなおした。
◇
「…へぇ、ナマエも来てたんだ。ちょっと困ったなぁ。まだ会うわけには行かないんだけど。」
屋根の上から里を見渡せば、刀を握るナマエの姿をとらえる。
相変わらムカつく顔してるなぁ。
「ヒョッヒョッヒョッ アレが例のお前の妹か、顔つきがにている!ヒョッヒョッヒョ」
「まぁね。…まだ殺さないでよ。ナマエは俺の獲物だからね。」
「ヒョッヒョッヒョ本当に癪に障る男だのうお前は…無惨様のお気に入りでなければお前なんて私が」
「五月蠅いな。早く持ち場に行けよ。」
「ふん…精々、非常食としての自覚を忘れるなよ」
ヒュンっと消えた玉壺に、僕はため息をはく。
無惨様ともあろう美しい方が、あんな下劣なものを近くに置くなんて。
まぁいい。無惨様は存在する事自体に価値があるんだ。それに今の問題は…
「…予定より早いけれど、作戦を実行しよう。」
僕は仮面を投げ捨て、ナマエの方に向かって飛び出した。
◇
「!」
なにか来る。
刀を構え、向かってくるナニカを待ち受ける。
鬼、じゃない、人間!
相手の短刀と、私の日輪刀が激しくぶつかり合う。
「やぁ久しぶり、ナマエ!元気だった?…って言っても僕の事覚えてないよね。」
「な…っ」
「ほら、早く思い出して。」
振りかざした短刀を、私に向ける出なく、男は自身の腕に突き刺す。
男の腕から血が噴き出す。
「僕の血の匂いを嗅ぐと、忘れた記憶をすべて思い出すようにしてるんだよ。」
血の匂いを嗅いだ瞬間、多くの記憶が映像として脳に流れて混んでくる。
あの月の晩の記憶
あの嵐の日の記憶
いままでの、兄との記憶
「お、に、ちゃ…」
「…やあナマエ。思い出してくれてうれしいよ。」
赤い目が、三日月のように細くなった。
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