たとえ届かない人だとしても | ナノ
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▼ その痛みの理由は

 
「凄いですね!」

食事中に発した炭治郎の声に、私は心の中で同意する。
凄いというのは甘露寺様の食事の量だった。
甘露寺様の目の前には無数の皿。しかももうすでにそれらは空だ。

「そうかな?今日はそんなに食べてないけど」
照れたように言う甘露寺様に、炭治郎は「俺もいっぱい食べて強くなります!」と返した。
その下では、小さくなった禰豆子ちゃんが遊んでいる。
今この空間、幸福指数が大変高い。
禰豆子ちゃんの頭をなでて、私も食事を再開する。

「あっそうだ。甘露寺さんが温泉で会ったのは不死川玄弥という俺の同期でしたよ」
「えっ!!そうだったの〜〜〜〜不死川さんの弟さんでしょう?でも不死川さんは弟いないって言ってたの。仲悪いのかしら。切ないわね。」

甘露寺様の言葉に、私の箸が止まる。
「そうなんですか…どうしてだろう」
「私のうちは五人姉弟だけど仲良しだから、よくわからなくて不死川兄弟怖って思ったわ〜」
禰豆子ちゃんを撫でながら甘露寺様はそういえば、と続けた。

「ナマエちゃんなら、二人の事なにか知ってるんじゃない?」
甘露寺様に話を振られ、私は困ったように笑う。

知っている、と言っていいのかわからないが、なんとなく察しは付いている。
師範はきっと、弟が大好きで、だからこそ鬼殺隊に入った事が許せないんだ。
そして私は、弟の為に鬼を斬る、師範にとってのただの駒だという事も、もう気づいてる。しかしこれはあくまで私の推測で、師範から聞いたわけではない。
なのでそんな事を伝えていいものか…そう答えに困っていると、炭治郎が不思議そうに「なんでナマエなら知ってるんです?」と問いかけた。

あれ、もしかして私…


「言ってなかったっけ…私、不死川さんの継子なんだよ。まぁ最近は全然稽古つけてもらえてないけど。」

そういうった時の炭治郎の顔。たぶん私は一生忘れない。
…師範、炭治郎になにをしたらそんなに嫌われるんですか。

「そういえば弟…玄弥は来ないんですか?」
師範の話はやめたほうがよさそうだと、弟の話に切り替える。
「どうしてだろう。本人と少しでも話せるといいんだけど…」
凄いな炭治郎。無視されてもガンガン行くタイプか…。

「あの子来ないみたいよ。全然食事しないって里の人が話してた。なにか持って来ているのかしら。」

甘露寺様の言葉に、炭治郎は後でおにぎりを持って行こうと言う。
先程の顔を真っ赤にした玄弥の姿を思い出し、私は炭治郎を見る。
炭治郎なら、もしかしたら仲良しになれるかもしれないな。


食事が終わり、おにぎりを届ける為玄弥の部屋に向かう。
歌いながら歩く甘露寺様をみて、下がった幸福指数がまたあがる。
いいなあ甘露寺様。…師範もこれくらい明るくならないかな。
想像しようとして、やめた。きっと想像したらトラウマになる。

仲良く話す二人。話題は甘露寺様の鬼殺隊の入隊理由だった。
…たしかに、気になる。
「添い遂げる殿方を見つける為なの!」
照れたように告げた答えに、私と炭治郎は固まる。
困惑して固まる炭治郎だが、私はその時別の事を想像して固まった。

強い人に守って欲しいと話を続ける甘露寺様。
その瞬間に想像してしまった。


師範と、甘露寺様の姿を。

「…」
心臓のあたりが痛くなり、私は自分自身の感情に戸惑う。
え、私…

玄弥だけでなく、甘露寺様にも嫉妬するなんて…
師範に依存しすぎじゃない…?
私は友達が少なすぎるから、きっと面倒を見てくれた師範に依存しているのだ。
自分自身の師範への執着にドン引きして、私は炭治郎と禰豆子ちゃんに近づく。

「…ずっと友達でいてね」
「?」
抱きしめた禰豆子ちゃんにも、隣を歩く炭治郎にも不思議そうな顔をされた。
師範離れをしなければ…私は密かに心に決めた。

玄弥の部屋につくと人の姿はなく、襖をしめる。
ちょうどその時、まもなく私と甘露寺様の刀が研ぎ終わる事が告げられた。

見送るという炭治郎の申し出を甘露寺様は優しく断った。
しかしと渋る炭治郎に、甘露寺様は微笑む。
「今度また生きてあえるかわからないけど、頑張りましょうね。」

上弦との戦いで生き残った事の凄さを告げながら、甘露寺様は禰豆子ちゃんの頭をなで、応援してるよと伝えた。

「ありがとうございます、でもまだまだです俺は。宇随さんに“勝たせてもらった”だけですから。もっともっと頑張ります。鬼舞辻無惨に勝つために!」

力ずよく答えた炭治郎の顔はとても凛々しく、甘露寺様の頬が少し赤らんだのを私は見逃さなかった。
可愛い二人にくすくすわらっていると、なにやら甘露寺様が炭治郎に耳打ちする。
後で甘露寺様が教えてくれたが、秘密の武器というものがあると教えたのだそうだ。

じゃあね。と手を振る甘露寺様に続いて、私も手を振る。
「炭治郎。またね。」

最後にちらりと振り返れば、炭治郎は鼻血を吹いていた。
甘露寺様の魅力を前に、そうなってしまうのは自然の摂理だと私は笑って手ぬぐいを投げ渡した。
 

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