たとえ届かない人だとしても | ナノ
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▼ 絆に呪われ、守られる


男は怒っていた。


あの方へ捧げる純血が、何者かによって汚された。
あの嵐の日、わざと憎しみを与えた。そしてわざと生かした。
その血が最大限に活かされるまで。

なのに、それなのに。
ナマエから感じる、第三者の血の気配。

あの日、ナマエに呪をかけた。
自分との記憶をすべて、忘れるように。
自分という、この世で唯一無二の存在を忘れ、復讐にだけ生きるように。
そして己を高め、強くなり、血が最高の出来に仕上がるように。
すべては、あの方の為に。

なのに、どこの誰だ。そいつはナマエに血を与えただけでなく、深く、深く繋がってる。

自分とナマエを繋げるもの。
肉親という、強い絆。
その血という名の絆にかけた呪い。それさえも超える強い絆。

ナマエは知らない。いま刀を交えてるこの男が、もう世界中を探してもただ一人しかいない唯一の肉親であることを。

男---兄は考えた。

ナマエに血を与えた人物は、ナマエと深く繋がっている。
故に、自身の呪いが薄れている。

許せない。許せない。許せない。

殺そう。ナマエを。
そう思って、刀を交えた男は、ふと思う。

ナマエを殺すのは、今では無いのかも知れない。
ナマエの目の前で、その深く繋がった何者かを殺せば、絶望に染まり、また、彼女の復讐心は強くなるのではないか。
そしてまた、そこに何よりも強い絆の呪いがかかれば----。

兄妹そろって、あの方の食事になれる。





刀を交えてる途中、男が高く飛び立った。
屋根の上から見下ろすその顔は、逆光で見えない。

「また会いにくるよ。その時は、ちゃんと綺麗なナマエにもどしてあげる。」
「待て……っ!」

次の瞬間に、男は消えていた。
…なんだったんだ。


頭痛はもう、消えていた。








冨岡様の元へ戻り、自身の呼吸を得たことだけ伝えた。
謎の男に会ったことは、伝えなかった。伝えられなかった。
なぜならナマエは、先ほどの事を覚えていなかったからだ。

師範に会いたい。
無性に会いたい。そうだ、呼吸を見せに行こう。
きっと褒めて……いや、褒めてはくれないな。

ふと、先ほどまで氷のように冷たかった手先が、じんわりと暖かくなっていることに気づく。

ナマエはしらないことばかりだった。
自身の肉親の存在を。
不死川に、二度も生かされた事を。
それを知らない自分自身を、ナマエは知らない。

また、不死川自身も知らない。
自身の血が、二度も己の弟子を救った事を。

彼らは、ひどく歪な絆なのだ。
 

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