たとえ届かない人だとしても | ナノ
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▼ 血の絆を彼女は知らない。


悩み続けていても任務は入る。
任務が入り、鬼をかりに出た。
その日は綺麗な満月だった。

任務が終わって夜道を歩いていると、ぞわり、なにかの気配を感じる。
鬼、ではない。何か。


こんこん小山の 子うさぎは
なぜにお耳が 長うござる
小さい時に母様が
長い木の葉を 食べたゆえ
それでお耳が 長うござる

遠く、いや近く、いや遠く、不思議な距離感で歌が聞こえる。
遠くから、近くから、はたまた頭の中から聞こえるような感覚。
懐かしいような、怖いような、不思議な感覚。
耳を塞げば、より鮮明に頭の中から聞こえる気がする。


「こんこん小山の 子うさぎは」


ふと、視線の先に一人の男が立っていた。
男、だと思う。上背があり、縦寸が高く、けれど、なぜか存在感が薄い。
本当にそこに存在するのか、見えていても疑うほどの、不思議な人影。

目を凝らせば、その男は狐の面をかぶっていた。
歌っているのは、あの男のようだ。

「なぜにお目目が 赤うござる」

そこで、面を外した男と目が合う。
まるで血のように赤い目。

「やぁ。やっと会えたね」
にこりと笑った男に、ぞわりと全身の毛が逆立つ。


会いたかった
会いたくなかった

声を聞きたい
耳を塞ぎたい

触れたり
拒絶したい

二つの感情が私の体を駆け巡る。
なに?誰?…足が、動かない。


「小さい時に母様が
赤い木の実を 食べたゆえ
それでお目目が 赤うござる…。

よく、一緒に歌ったね。ナマエ」

すこしずつ、すこしずつ近づく男に刀を抜こうとするも手が動かない。
まるで金縛りだ。

「し、知らない。誰、あなたは、何者なの。」

動け

鬼、ではない。人間だと思う、だけどひどく恐ろしい。

動け

「忘れちゃったのも無理はない。ゆっくりでいいんだ。思い出させてあげよう。」

動け

「く、くるな!」
叫べど体は動かない。
 
動け

「無理をしないで。君は動けない。その血すべてに呪をかけた。僕の命令に君は逆らえない。」
血のような赤い目が、三日月のようになる。

「大丈夫。君は僕を受け入れる。なんだって僕らは、もうこの世にたった二人っきりのーーーー」


動け!!!



『早く戻ってこい。馬鹿弟子ィ。』
ドクン。心臓が、脈を打った。

「あああああああ!」


喉が裂けそうなほどの大声と共に、私の利き手が刀を抜く。
その行動に、男は目を見開き、後ろに飛び退く。

「ナマエ…誰の血を入れた。高貴なる血に、誰の血を混ぜたぁ。」

短刀を取り出し、貼り付けた笑顔だった男が初めて感情をあらわにした。

この男、ここで殺さないといけない。
私の勘が、そう告げた。
この男と出会ってから、ひどく頭が痛い。
脳みその奥の何かが疼くように。
心臓が痛いくらい鼓動をしている。

こいつは鬼じゃない。けれど、はやく、斬らなければ。

あるがままを受け入れろ。
感情を突き動かせ。
いままでの師範に習ったすべて、これまでに得た物たち、そして、最後にのせるは、私自身の本能。

全てをこの太刀筋に。

「嵐の呼吸、壱の型」

私の刃を、この男に。

 

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