たとえ届かない人だとしても | ナノ
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▼ 私の呼吸


水の呼吸は、技が基礎に沿っているから派生がしやすいんだ。


初めて行動を共にした日、炭治郎がそう言っていたのを覚えている。
その言葉は少しずつ少しずつ私の思考に絡まっていった。
基礎に沿った水の呼吸と、強く吹き荒れる風の呼吸。
両方を組み合わせ、私にしかできない何かをそこに足したらどうなるのだろう。

思いついてからは、それが自身の呼吸になるとなぜか頭が理解した。
風の呼吸からの派生、たしか伊之助と霞柱様がそうだ。
雨と風、それが合わさってできるのは決まってる。
あの日、私を家族と引き離したもの。皮肉にも、私の命を救ったもの。

それは

「と、冨岡様!なんだかその烏ヨボヨボしてるけど大丈夫ですか!?」
「いつものことだ。」
「いつものことなんだ………。」

冨岡様に付きまとうようになって早一週間。
怖い。何考えてるかわかんない。無表情。物静か。
これが冨岡様へのイメージだったのだが、一週間もそばにいればわかる。

この人、天然なだけだ!
たしか炭治郎は冨岡様と親しかったよな…?
いいの?天然二人が揃って大丈夫なの?

二人のほわほわしてるであろう会話を想像して、まだみぬ天然二人の被害者へと手を合わせた。





水の呼吸は、なんというか、すごく静かだ。流れるように、あるがままを受け止めるように。
水の呼吸の修行を始めてから、座禅をする時間が増えた。
静かに、雄大に、あるがままを受け入れる。

さらに二週間が経った。
水の呼吸、というより、水の呼吸を使う際の立ち回りや呼吸の流れを自分なりに解釈会得した。
あくまで私は師範の弟子。水の呼吸ではなく、風の呼吸を軸に使いたい。

ここまでは順調にきたのだが、私はある段階で修行に詰まる。
私だけの何か。それはなんなのだろう。
時透様のように、甘露寺様のように、伊之助のように。
自身にしかない強みを、太刀筋に。

頭を抱えること三日。まだ正解は見つからない。
「あーわかんない。」
ごろんと芝生に寝転べば、空に燕が飛んでいる。

…炭治郎達、鍛錬頑張ってるかなぁ。

私は知らない。その時彼らが、『彼女ら』になっている事を。
 

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