たとえ届かない人だとしても | ナノ
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▼ 目の前にいるのは天使か悪魔か


あの日、気を失ったらしい私は一度目を覚まし、それでも続く地獄の光景に力が抜けた。
妹の着物を抱きしめ、フラフラと家族の死体のもとに行き、まるで糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
そして二度と、目が覚めないよう願い、再度意識を手放した。


あれから何日たったんだろう。

空腹も喉の渇きも、もう感じなくなっていた。
左手に冷たい家族を、右手に妹の着物を握りしめて血溜まりの中ただ時が過ぎた。

ねぇ、はやく私もそっちに連れてって。


何度も日が昇り、そして沈んだ。何回目かわからない太陽の光の中、
ふと、頭上から声が聞こえた。



「おい、おめぇ生きてんのかよォ。」


頭上にかかった声に、視線を合わせばm逆光の中写る人影。
その輪郭が、私の瞳に映る。

死を望む私の前に現れたのは、随分とガラの悪い天使だった。

やっと迎えに来てくれたのか。
声がかすれて、音がでない。けれど、伝えなければ。
口から出る音は、ヒューという息が抜けるような音だけ。

その死にぞこないの音を聞き、柄の悪い天使は私を抱え上げる。


「なんつってんのかわかんねぇけど、生きてるんだな。おい、連れて帰るぞォ」


天使が私を連れて行こうとする。
『天国でも地獄でも、どこでもいいから家族の所へ連れて行って。』
私の願いは天使に聞こえただろうか。



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