たとえ届かない人だとしても | ナノ
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▼ 師匠の気持ち弟子知らず


『拝啓師範へ
胡蝶様からお聞きとは思いますが、私、稀血というやつらしいです。
もしかしてですが、師範もそうだったりするんでしょうか。いや、師範は聞いても教えてくれないですね。やっぱり、忘れてください。』

忘れてください。なんて書くくせに、書き直したりせずしっかり自分に読ませるあたり、あのクソ弟子は生意気に育った。
数年前までベソベソ泣いてた小娘とは思えないほどだ。

不死川はため息を吐きながら続きを読み進める。

『煉獄様が目を覚さないまま時が過ぎ、自身の弱さを日々痛感します。
私は少しでも鬼を多く斬りたい。
私や、師範のような思いをする人を減らしたいんです。』

「あァ?」

読み進めた不死川は、すぐにまた中断する。
私や師範のような≠アの文字を凝視する。
自身の生い立ちを話した事はないはずだ。

あのバカ弟子は、出会った頃からそうだ。
人の何かに入り込んでくる。
まるで内側から紐を解くように、俺自身さえ忘れている何かを思い出させてくる。

「ちっ…。」

『そういえば、師範。私が目を覚さない間、お見舞いに来てくれました?意識を失ってる間、なんだか師範の夢を見た気がします。』

「……………。」

前回の手紙で突き放してきたと思えば、今回はコレだ。
なんて勝手なやつなんだ。
ふと、ここで自身が彼女に振り回されてる事に気づき、イラつく。
見舞いに来たも何も、大量に血を失ったバカ弟子に血を分けたのは自分だ。

輸血の際にできた左手の傷をちらりとみて、不死川はあの時の事を思い出す。

運び込まれてきた彼女はとても白い顔をしていて、まるで死人のようだった。
同時に運ばれてきた煉獄も、右の腕が失われ。その傷口からは大量の血を流し、頭も赤く染まっていた。

竈門炭治郎の胸ぐらをつかみ、なにがあったかと問えば、ナマエが自身を傷つけ、鬼がそれに惑わされたようにふらつき始めたと言う。

まさか、自分のようなものがもう一人いたとは。
胡蝶に自分の血を使えと、気づいたら口が動いていた。

血を与えたあとも、何度も彼女のもとに足を運んだ。
毎日毎日、手ぶらではなんだと無意識のうちに言い訳をして、花を摘んで行った。
まだ目覚めない。まだ目覚めない。いつになったら目が覚めるんだ。

「はやく戻ってこい馬鹿弟子ィ」

彼女が眠る枕元で、そう呟いた自分自身に戸惑った。

あの日、泣き叫ぶだけだった少女。
弱い、力のない、ただの少女。
その少女が、自身の訓練に耐え、選抜に残り、刀を握り、己さえ傷つけて仲間を助けようとした。
弟子、なんて、認識していなかった。
鬼を斬る存在は一人でも多いい方がいいだろう。
それが玄弥じゃなければ誰でもいい。
そんな思いから利用した、ただの少女。

いつかその存在は、自身の血を分け与えるほど、毎日目が覚めるのを待ち続けるほど。
それほどまでに大きくなっていた。

目が覚めたあと、まだ不死川はナマエと顔を合わせていない。
ナマエに会うと、自身が変わってしまうのではないか。
そう無意識のうちに避けていた。


「まぁ、なんだ、会いに来るってんなら、会ってやらねぇこともねぇなァ。」
そう思った矢先、手紙の最後の方を見ると。

『しばらくは冨岡様のところで修行しますね!』

と、元気いっぱいの文字で書かれており、不死川はその手紙を握りつぶした。



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