たとえ届かない人だとしても | ナノ
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▼ 赤に染まるのは誰



なんだ、なんだこれは。
嫌な予感がして走り出した瞬間。
突如大きな衝撃が降りかかる。

走り出していた事もあり、寸前の事で避けるが、他の人を守る事が出来なかった。

汽車全体が突如大きな攻撃をされ、まだ移動をさせていなかった乗客が数名吹っ飛ぶ。
禰豆子ちゃんも、善逸も、攻撃をくらってしまった。

突然の出来事に一瞬思考が停止する。
なに、なんで、どこから!

善逸と禰豆子ちゃんの息があることを確認して、炭治郎達の方へ走る。
乗客も気になるが、優先すべきは鬼。
この先に、鬼がいる。おそらく、十二鬼月が!!

ごめんなさい。ごめんなさい!
心の中で何度も謝罪をし、怪我人の上を飛び越えていく。
すぐに助けが来るから。鬼殺隊の人たちが、来てくれるから。ごめんなさい。
もう少しだけ、待っていてください!



「炭治郎!伊之助!!」

二人の元にたどり着くと、目の前に広がるのは
「なんで…っ!」
禍々しく、しかし力強く立つ鬼。
煉獄様と互角に戦いをしている。
身体中に線の様な模様が入ったその鬼の姿を見た瞬間、理解する。

勝てない。

私では勝てない。いま、この二人の間に入るのは足手まといだ。

なんで、なんで、なにか、なにかできないの、私には─────────

『ナマエさんは、すこし、不思議な体質ですね。』


ふと思い出したのは、一年前、鬼殺隊に入ったばかりの頃、胡蝶様に言われた言葉だ。

『傷の治りが異様に速い。まだ呼吸も使えないのに…。あの日…ここに来た最初の頃です。鬼になった妹さんを抑え込めたり、あんなに衰弱していたのに生きていたりと、運がいいと思っていましたが、もしかしたらなにか「不思議な力」があるのかもしれませんね。』

たしかにそう、胡蝶様は言った。

なんで、いまその話を思い出したんだろう。
なんて事ない、世間話程度にしか受け止めていなかった。
でも、たしかに不思議なのだ。
あの日、私が数時間も鬼の妹を抑えられたのはなんでだろう。
非力な人間が鬼を、長時間抑えられるはずがないのに。



私は刀を自分の手首に押し付けた。



「なにしてんだてめぇ!!」
「ナマエ!?なにを…っ」


あの日、私は怪我をしていた。
血を流していた。
思い出すのはあの月の日の師範の言葉

自分で斬った。

そう、師範は言った。あの傷だらけの腕を。自分で。

特別な何か。
もしかしたら、もしかしたら私は、師範は
特別な


血を持っているんじゃないか。

「おい───!」

止める伊之助の言葉も虚しく、
私は力の限り、自身の腕を斬りつけた。





ぐらり。
煉獄と戦っていた猗窩座の視界が歪む。
はて。なんだこの感じは。

まるでなにかに惑わされる様に、視界が歪む。

煉獄はその隙を見逃さない。
攻撃、攻撃、攻撃、すべてを猗窩座はかわすことで精一杯だった。

なんだ。なんだこれは。
不思議な匂い。自身を惑わす匂い。

その匂いのもとに、一人の少女がいた。

なんだ、あれは。





「馬鹿野郎!なにしてんだ!おい!死ぬぞおめぇ!!!」

伊之助が私を抱き抱えながら、必死に私の手首を抑えるが、指の隙間から次々と赤が溢れ出す。

「おまえ、バカなのか!おい!血がいっぱい出ると死ぬんだぞ!しのぶが言ってただろ!!」
「おね、がい伊之助、止めないで、お願い。私、私にでき、る、出来る事、これしか…!」
「なに言ってんだおまえ!!」

どんどん酸素がなくなっていく。
手先が痺れる。立ち上がる事も出来ない。
だけど、効いている。
視線の先でフラつく猗窩座をみて、自身の判断が間違ってなかった事を知る。

血に染まった指で猗窩座を指させば、伊之助と炭治郎もその異変に気づいた様だ。

呼吸を落ち着かせるんだ。手首の血を、致死量ギリギリで止めろ。
自身に言い聞かせるように呟けば、出血が徐々に止まっていく。
呼吸をつかえ。いままでのすべてを、駆使するんだ。

酸素の足りない頭を精一杯まわし、ゆっくりと傷口を抑える。
出血は止まったが、動けそうにない。
だらりと下がった腕が、地面にぶつかる。
パシャリ。
その時に気づく。自分が赤に、沈んでいる事に。
これ、全部、私の血か。

傷口を閉じることには成功したが、これはもしかしたら死ぬかもしれない。
でもこれくらい量をださなければ、上弦の鬼には効かなかっただろう。
ああ、ダメだ、意識が遠のく。

沈んでいく意識の中、強く願った。

煉獄様。煉獄様お願い。死なないで。
こんな私の命で良ければ、かわりにあげるから。


そこで私は、意識を手放した。
 

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