▼ その日、私は神に問いかけた。
なんでこうなったんだろう。私たちは、なぜこんな目に合わないといけないんだろう。
私に覆いかぶさり、その鋭い牙で噛みつこうとする妹を必死に押さえつけながら、私は普段信じていない神に問いかける。
なぜ妹がこうなってしまったのか。
なぜ私の家族はみな死んでしまったのか。
ねぇ。私の可愛い可愛い妹は、なぜ私を襲おうとしているの。
昔のように繋いだ両手。よくこうやって二人でおしゃべりをした。
でも昔と違うのは、その繋いだ手から伝わる明確な殺意。
夢か現実かもうわからない。
だけどこの手の力を緩めないのは、妹を人殺しにさせたくないから。
「夢でも…君を人殺しには、おねぇちゃん、させたくないなぁ。ねぇ。私じゃなくて、おいしいご飯、一緒に食べようよ」
妹も、もちろん神も、問いには答えない。
視線を妹から外すと、近くで家族が重なり合って大きな血の池をつくっている。
父は、母は、なぜあそこに沈んでいるのだろう。
この状況も、原因も、わからないことだらけだ。
ああ。風が吹いている。遠くで、朝日が昇る音がする。
妹は、その時はじめて私から視線をそらした。
身体にかかっていた重圧が一瞬消えるも、再度妹は私に襲い掛かる。
もう私の手には力がはいらない。長い間、妹と対峙していた気がする。
ごめんね、おねぇちゃん君を守れなかったよ。
ふと、私の顔に影がかかる。太陽にさらされた妹の影だ。
すると妹は突然私から離れ、苦しみ、そして
「だめだ!!」
軽くなった体を飛び起こし、妹を抱きしめる。
私から離れたと思ったら、ボロボロと妹の体が炭のように崩れ落ちていく。
「だめ。だめ!だめよ私を一人にしないで!お願い行かないで。おねぇちゃんも一緒に連れて行ってよ!!」
首だけになった妹の頭も抱えるも、妹の頭が小さな灰になり、
両手からすり抜けていく。
いやだ、だめだ、そんな。
最後に、妹と目が合った気がした。
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