たとえ届かない人だとしても | ナノ
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▼ 心地の良い悪夢


煉獄様が任務について話をしてくれた。
ここ数日の多数の行方不明者。数名の隊員が消息不明。
間違いなく鬼がいる。柱の方が出向くレベルの鬼だ。
息を整える。焦ってはいけない。
降りるぅ!と叫ぶ善逸の背中をさする。
こわいよね。わかるよ。でも頑張ろう。私たちは鬼殺隊なのだから。

善逸に声をかけようとした時、頭上に影がかかる。

「切符…拝見…致します…」
そう呟く車掌さん。なんだがザワザワする。こう、うなじのあたりが。
そう思った時には、「拝見しました。」と車掌さんは切符を切ってさっさと足を進めていった。
…思い過ごしだったろうか。





「おねぇちゃん?」
「え?」

ふと、呼ばれて顔を上げると、母と父と、可愛い妹。
あれ?私、なにをしていたんだっけ。

「おねぇちゃん。どうしたの?ご飯、食べないの?じゃあ私、それもらっていい?」
「こら、あんたのはちゃんとあるだろう。おねぇちゃんだってお腹すいてるんだから、ちゃんと自分の分だけにしなさい。」
「あ、いや、いいよ。ほら。食べて。たくさん、たくさん食べて。…人なんか、食べなくていいように。」
「え?おねぇちゃん。なに言ってるの?」
「え?あれ?なんだろう。…ほら上げるよ。コレ、好きだろう。」
「あ、またあんたはそうやって妹甘やかして!」


家族で食べる食事。
なんだろう。なんだか、久々な気がするな。

「いいじゃないか母さん。ナマエ、ほら、ナマエには僕のをあげる。」
そう言って、向かい側に座った青年が私の方に食事を渡す。
「あ、ありがとう、えっと」
名前を呼ぼうとするも、青年の名前が出てこない。
そこであれ?ともう一度男性の顔をみる。
青年の顔には黒いモヤがかかっていて、顔が見えない。

誰?
この人は、誰?
私の家族は、横にいる妹と、その隣にいる父さん。
そして鍋をよそっている母さん。
そして、私の向かいに座っている…
あなたは、誰?






「おねぇちゃん?」
「あれ?」
私、なにをしようとしていたんだっけ?

あ、そうだ。妹の、着物を買いに行くんだ。そうだ、町に降りて、新しい着物を。
なにかを忘れている気がするが、思い出せない。

「今日は嵐が来そうだから、明日にしなさい。」
そういう母さんに首を振る。

「明日は、大切な日だろう。妹には綺麗な着物を着せてあげたいんだ。」
「私も行きたい。」
「だめよ。天気も悪いし…もし嵐になったら、一晩泊まるかもしれないんだから。あんた、まだアレ、縫い終わってないんだろう?だから着物はおねぇちゃんにお願いしなさい。」
えー!とふてくされる妹の頭に手を置く。
「お土産を買ってくるよ。アレの完成。私も楽しみにしているよ。」

だめ。行っては、ダメだ。
刀を構えて。迎え撃つんだ。私がここを離れたら、誰が、誰が家族を守るの?
刀?なんで刀をかまえるの?
自分で自分が分からなくなる。
「…やっぱり、明日の朝早くに行くよ。」
気付いたら、そう呟いていた。


夕方になると、大量の雨が地面を打ち付けていた。
激しい音を立て、強い風も吹いている。
その様子を家の中からぼんやりと見つめた。
ふと、その風に触れたくなり、外に出て手を伸ばす。
私の右手が風にさらされる。冷たい。ああ。冷たいな。冷たいけど、なんだか、暖かい。


『お前の妹は、お前を殺したくなくて、自分から死んだのかもなァ。』


そう言ってくれたのは、誰だったっけ。

思い出せない、うっすらと頭に浮かぶシルエット。
誰、だっけ。あの人は…。

突如、私の体が燃え始めた。
なに!?なんで!?
みるみる姿が変わる。着物から隊服へ。
腰には刀。

『お前の妹は、お前を殺したくなくて、自分から死んだのかもなァ。』
『次はねェ…次なめたマネしたら殺すからなァ。』


師範


そして、全てを思い出し振り返る。

「おねぇちゃん?」
不思議そうに、首をかしげる、何度も何度も夢に見た妹の顔。


これは夢だ!!
そうか、そうだ。私は汽車の中に

「もう!おねぇちゃん!早くしないと間に合わないよ?」
「!!」
「どうしたの?ほら、明日は大事な日だよ。」

また、同じ光景。自覚しても続く夢に、息が止まりそうになる。
目覚めない!なんで!?夢だと自覚しただけじゃ、ダメなのか!?

「行かないと!!」
禰豆子ちゃん!炭次郎!伊之助!善逸!煉獄様!
みんなも寝てしまったのか?それとも私だけ?
いや、早くしないと!はやく目覚める方法を、


「おねぇちゃん、私を置いて行くの?」
「…っ!!!」


なんで、こんな、こんな夢を。
「ここでずっと一緒に暮らそう。ほら、刀なんて離して。おねえちゃんは、菓子屋さんになりたいって言っていたじゃない。刀なんていらないよ。ほら、一緒にここで楽しく過ごそうよ。」

ああ。ここに居たい。ずっとここに居たい。
目を覚ましても、私には守る家族はもう居ない。
だったら、だったらずっとここに。

『お前の妹は、お前に、普通の日常ってやつを送ってもらいたかったと思うぜ。』
『はい。たぶん妹はそう言います。でも、私にはそう言ってくれる妹がもういませんから。でも、でもそうですねぇ。妹が生きていたとしても、たぶん私は鬼殺隊にはいります。だって…妹が平和に暮らせるように、鬼を倒さなきゃ。』

師範
師範、師範。私。

『そうか…そうかよォ』

そうだ、あの時師範は、笑っていた、気がした。
「ごめん、ごめんね。私…行かなきゃ。」
妹の手を振り解き、走り出す。
妹の泣き声が聞こえる。私を呼ぶ声が聞こえる。
ごめんね。ごめんね。ねぇちゃん。いつも君に寂しい思いをさせてしまうね。
でも私は、私が生きる為に、刀を握るよ。
私みたいな思いをする人を、一人でも減らす為に。

目を覚さなければ。
刀を首にあてる。
間違えてたらどうしよう。もう目が覚めないかも知れない。
でも、たぶんだけど、あってる。私の勘が言っている。

斬。

私は私の首を切った。
 

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