たとえ届かない人だとしても | ナノ
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▼ 猫に小判。猪に嘘


「なんだあの生き物はー!!」

炭治郎達について行くと決めた私だが、伊之助の馬鹿でかい声に早速それを後悔する。
つい先ほどまでは人の多さに萎縮していた癖に、なんとまあ元気な猪だ。

いや汽車だよ知らねえのかよ。
としらけた顔で言う善逸の言葉を聞かない伊之助。
この土地の守り神かも。などと真顔でいう炭治郎。

善逸、君、苦労してきたんだね。

しかしなんというか、見るからに警戒している伊之助が面白く、つい悪戯心が疼く。

「そうだよ伊之助。この方は君のいう通りこの土地の主だ…。君も確か山の主だったね。でも、さすがにこの大きな主には、君も敵わないんじゃあないかな。」
この意地悪を、私は2秒で後悔する。

「俺様が一番に決まってんだろぉ!うおおお!猪突猛進!!!」
「ばか!やめろ!」
「やめろ恥ずかしい!!」

慌てて止める私と善逸の言葉も虚しく、警官だ!警官を呼べ!と周囲が騒がしくなる。


「やばっやばいやばいやばい逃げろ!!」
まだ頭突きをしている伊之助の手を取り、走り出す善逸を慌てて追いかける。

(今度から悪戯は時と場合を相手を考えよう…)
今日の教訓。猪に嘘は、時と場合を考えなければならない。





なんとか警備から逃げ切り、刀を隠そうと提案した善逸に私は激しく縦に首を振る。
政府非公認とは、なんとも肩身が狭いものだ。

どうだ!とばかりに、背中に担いでも丸見えなのに、猪の被り物の下でドヤ顔しているであろう伊之助に頭を抱える。

「無限列車っていうのに乗れば煉獄さんと会えるはずなんだけど…すでに煉獄さん、乗り込んでいるらしい。」
炭治郎の言葉に、切符を買ってくると言う善逸。なんて頼りになるんだ。
次からもう少し優しくしてやろう。伊之助の首に背中が隠れるよう布を巻きながら、そっと心に誓った。

善逸のお陰で無事切符も買え、中に入る。
腹の中だなんだ騒いでる猪があまりにうるさいので、巾着から金平糖を取り出す。

「ほら、伊之助。これをあげよう。」
「なんだぁこれ!ちっせぇな!なんだこれ!」
「ほら、善逸も手を出して。みんなの分の切符を買ってきてくれてありがとう。」

二人の両手にコロンコロン。と金平糖を数粒おけば、善逸がそれをじっとみつめる。
さっさと口に放り込んだ伊之助が「あめええええ!」と叫んでいるが、うるさい。と今度はキャラメルを突っ込んでおいた。
どうだ。歯にくっついて喋りづらいだろう。ふふん。

「ナマエちゃんって…」
「ん?」
「いや、なんでもないよ。ありがとうナマエちゃん。」
にこりと笑って金平糖を食べる善逸。
女というだけで騒ぐ彼が、こんなに穏やかに笑うのを見るのは、私は初めてかもしれない。


「ほら炭治郎も。金平糖をあげよう。で、炎柱様の顔、君はちゃんと覚えているの?」
「うん。派手な髪の人だったし、匂いも覚えているから。だいぶ近づいて…」
「うまい!」
「……。」

聞いたことのある声に、私は頭を抱える。
伊之助だけですでに疲れているのだ。私は。これ以上はツッコミがもたない。
いや、柱の方にそんな風に思うのは失礼だ。
自分を叱咤激励し、声の方向に炭治郎達と向かう。

うまい!を何度も連呼し、弁当を食べ続ける炎柱様にまたしても頭を抱えたくなったが、柱様だと自身に言い聞かせる。柱様に失礼な態度はよくない。

「あの、すみません。」
「うまい!」
「れ、煉獄さん」
「うまい!」
「あ、それはもうすごく伝わりました。」
めげない炭治郎に拍手を送った。ごめんなさい柱様。一回だけ。一回だけ思わせてください!
うるさいな!!!




炭治郎は炎柱…煉獄様に話があるようなので、二人きりにさせよう。
伊之助と善逸が座ったすぐ後ろに私も腰をかける。
窓から出ようとする伊之助と、それを止める善逸に不本意ながら笑えてきた。
仲が良くて、見ていて微笑ましい。
「ナマエちゃんも笑ってないでこの馬鹿止めて!!?」
「あはは、がんばれー。」
適当に返せば、前の方に座っていた煉獄様がこちらを振り返る。
「危険だぞ!いつ鬼が出てくるかわからないんだ!」
ニコニコとしていた私だが、煉獄様の言葉で固まる。

「「え?」」

善逸と私の声が綺麗に揃ったのは、言うまでもない。
 

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