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「ナマエはどうだ。」
「…なんでそんなことを聞くんですか。」
とある晩、とある一室。
そこにいるのは岩柱と風柱。
遠くで鳴く虫の音しか聞こえないほど、静かな空間だった。
「不死川…お前はナマエを風柱の後継者として育ててはいないだろう。」
「…あいつを柱にしようなんて気はないです。あいつが強くなりたいと言った日、使えると思った。継子なんて言われていますが、稽古だってまともにつけたのは最初の一年だけ…それに、あいつはおそらく柱にはなれない。あいつは、弱い。」
その弱さは、心の未熟さ…言い換えれば、優しさからくる甘さだと不死川は気づいているが、それを言葉にはしなかった。
「波阿弥陀仏…哀れな少女だ。信じてる師にこう言われて。」
悲鳴嶼の言葉に、不死川はお言葉ですが。と反論をする。
「あいつは哀れな女じゃない。俺に利用されてる事も気付いている。それでも鬼を斬りたいと、俺の手足となる事を自分で選んだんです。」
その不死川の言葉に、悲鳴嶼は心の中で問いかける。
違うだろう不死川。お前は彼女の姿を見て、己と重ねたのだろう。
下の子を思う姿を。家族の為に戦うと決めた彼女を。
そして同時に、弟の代わりを求めているのだろう?
弟には鬼狩りになって欲しくない。だから、弟の代わりであり、鬼を狩ることのできる存在を、弟のかわり、いや身代わりにしたのだろう?
しかし不死川にそれを伝えることはなかった。
この師弟は実に歪だ。
歪だが。間違いなく強い絆で結ばれている。
それを第三者が口出しすることではない。
彼らにはお互いが必要なのだ。
そしてそんな会話があったなんて知らず、翌日、私は師範に手紙を出した。
【拝啓 師範へ
今私は蝶屋敷で鍛錬をしています。
全集中常中の呼吸を使えるようになりました。
師範の教えのおかげです。
体の傷も癒、次の任務が入るまで竈門炭治郎達と過ごそうと思います。
あの兄妹を近くで見ていたいと思うのです。
彼らはいまから炎柱様のところへ向かうと言っていました。
それから師範、わたしは自分の呼吸について
竈門炭治郎をみて思うことがあります。うまくいったら師範に見て欲しいです。
誰の妹でもないナマエより。】
最後に少し嫌味を書いて、師範に手紙を出した。
手紙が届いたらどうなってしまうのだろう。
私達はお互いを利用している、利害一致の関係だ。
それなのに、私は子供みたいに拗ねて、自らそのバランスを崩してしまった。
私、師範に嫌われたくないっていう割にすぐ喧嘩売っちゃうよなぁ。
これもきっと師範に似たんだと無理やりな言い訳をして、私は蝶屋敷を後にした。
そう、私は誰の妹でもないのだ。
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