たとえ届かない人だとしても | ナノ
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▼ 私は彼の


「え?うそでしょ?カナヲちゃん、この瓢箪を割ってんの?これを?手刀じゃなくて?呼吸で?」

あんな華奢な子が?
目の前にある固く大きな瓢箪。渡された時は炭治郎と瓢箪を交互に何度も見た。

それからは常に全集中の呼吸をするよう意識をした。
始めて数日は、いつもより少し長くするだけでぶっ倒れそうになった。
炭治郎は耳から心臓が出たかと思ったとか頭のおかしい事を言っていたが、確かに私も修行中何度も毛穴から内臓が出るかと思った。
…なるほど、この発言、外から見るとだいぶ滑稽だな、気をつけよう。
人の振り見て我が振りなおせ、だ…。

しばらく続けていると、初めの頃よりだいぶ続くようになってきた。
折れた指の骨と肋骨も完全に完治。なんなら前より丈夫にくっ付いたような気がする。
気がするだけかもだけど。







「割れたぁ!!!!」

十日後。炭治郎がついに瓢箪を割った。
その後、なんとか私も瓢箪を割り、二人でお互いを称えあった。
すごい。私ら本当すごい。えらい。

そして炭治郎はカナヲちゃんとの勝負にも勝ち、それをみた伊之助と善逸は危機感を覚え再度修行を始める。
炭治郎に遅れる事三日。私もついにカナヲちゃんの頭にお茶を乗せ、鬼ごっこでも腕を捕まえる。

そして二人もまた、炭治郎に遅れる事九日、全集中、常中会得。
この3人の戦闘センスには正直嫉妬した。
いかんいかん。師範の言葉を思い出せ。他人を羨む暇があったら修行、だ。





全集中常中を覚えてからは、だいぶ身体が丈夫になった。
師範に伝える為、手紙を書こう。そう思い、紙をもらう為館を歩いていると、最終選別の時女の子に掴みかかっていた青年がいた。が、なんかでかくなってない?
あの時は師範の兄弟かな。なんて思ったけど違うかも。師範チビだし。

特に声をかける仲でもないので、そのまま横を通り過ぎようとした瞬間、腕を掴まれる。
「いっ…」
掴まれるなんて可愛いものじゃない。握り潰される。が正しいかもしれない。
「おまえ、面をつけてたやつか。」
「いたっ。ねぇ痛いって。離して。」
「女だったのか。いや、それよりもおまえ」
「離せっつってんだろ!」

せっかく怪我が治ったのに、腕がミシミシ変な音を立てている。こいつ、力がバカ強い。

「おまえ、風柱の継子って本当か?」
「!…あんたに関係ないと思うけど!」
「うるせぇ!兄貴にどうやって取り入ったんだ!おまえみたいな弱ぇやつ、兄貴が認めるわけがねぇ!」
「やっぱり兄弟なんだ!?」
「うるせぇ!質問に答えろ!」
「どおりで!似てると思った!」
「なっ」
一瞬隙を見せたこのバカ力野郎。その隙を見逃す程、私は弱ぇ奴ではない。(根にもっている)

腕を捻り引き離し、相手の腹を蹴る。
体制が崩れたところで下段に再度蹴りを入れる。
突然の反撃にバカ力野郎はそのまま派手に転び、そのまま私は馬乗りになる。

「あんたの言う弱ぇ奴に、馬乗りされる気分はどう?」
「てめぇ!」
「質問に答えてあげる。私は確かに風柱の継子ではあるけど、それは私が頼み込んでしてもらった事。師範が自分から私を選んだわけじゃない。次に、師範が私を認めるわけがないってあんた言ったね。それは正解。師範は私を1ミリも認めていない。これから私は師範に認めてもらうんだ。以上。」

弟くんから体を離し、最後に思いっきり舌をだしてやった。
イライラする。
イライラする原因は、それは浴びせられた彼の言葉が全て当たっていたからだ。


師範は、私を認めていない。
けれど修行をつけてくれる。
鬼の倒し方を教えてくれる。
だけどそれは私にじゃない。
師範は私を通して誰かを見てる。それが誰なのかずっとわからなかった。誰の代わりであっても、師範が私を育ててくれるならそれでいいと思っていた。
けど、けどわかってしまった。

あいつだ。あのバカ力野郎。
私はあいつの代わり。いや、ひょっとすると代わりというよりも身代わりーーーー。

師範。あなたに何があったか私にはわかりません。
私は強くなる為、貴方を利用している。
だから貴方に利用されるのなんて平気だ。そう思っていました。
けど今日、はじめて彼を見て、私は…

寂しい。そう、思ってしまった。

 

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