たとえ届かない人だとしても | ナノ
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▼ 藤の家紋の家


任務後、カラスに連れて行かれた藤の家紋の家。
師範から話は聞いていたが、実際に足を運ぶのは初めてだ。
なんとこいつら、揃いも揃って肋が折れているらしい。
それであんなに騒いでいたの?頭おかしいんじゃないの?

私は怪我をしていないので、一晩だけ泊まって屋敷に戻る事にした。


四つに並べられた布団に頭を抱えるが、
まぁべつにいいかと3人を先に風呂場に向かわせる。
戻ってきた3人に、自分は一人で入りたいので入ってきたら殺すとだけ伝えといた。
これで大丈夫だろう。

部屋に戻ると嘴平は寝ていたが、竈門達は私をまっていた様で、
どうしたのかと問うとあの箱について。と竈門は真面目な顔で答えた。

「ミョウジも、善逸も、わかってて黙っていてくれたんだろう。ありがとう。本当に、ありがとう。」
竈門は真っ直ぐにお礼をいう奴だ。なんとも照れる。
返答に困っていると、箱あらカリカリと音が鳴り、でてきたのは…

「…っ」

少女。まだ私たちよりも幼い、と、思う。
体を伸縮できるようなので定かではないが。
なんとも可愛らしい顔立ちだ。

彼女は鬼だが、人を襲わない。そう竈門は説明した。自分の大切な妹なのだと。
妹の頭を撫でる、その姿が、その空気が。自分と妹に重なる。

『いってらっしゃいおねぇちゃん。明日、楽しみだね。』
最後に見せた、妹の姿。


涙が、流れた。


「え、ちょ、お前、泣いてんの??」
面から溢れた涙は、畳に落ちていく。
先ほどまで怒り狂っていた善逸はギョッとしたように布をこちらに差し出す。

「すまない、すまないミョウジ。なにか悲しい思いをさせてしまったか。」
謝る竈門に返答もできないほど泣いた。
蝶屋敷で師範に誓ったあの日以来の涙だった。

ふと頭に影がかかる。
見上げると鬼の少女。

ぎゅっ。
私を抱きしめる少女に、さらに涙をながす。
鬼だ、彼女は鬼だ。けれど優しい人間だ。
私の、妹のように、優しく、暖かい

『……。お前の妹は、お前を殺したくなくて、自分から死んだのかもなァ。』

あの日の師範の言葉を思い出す。
師範のあの言葉、本当かもしれません。
この鬼の少女の温もりで、私はあの時の師範の言葉が本当かもしれないと強く思えた。


そのあと おまえ!ざけんなよ!ゴラァ!と怒り狂った善逸に引き剥がされ、竈門にこの子の名前は禰豆子というと教えてもらった。

ねぇ。竈門。ごめん。
君の妹を、私は実の妹と重ねて見てしまう。そして妹の代わりに禰豆子ちゃんを護りたいんだ。ごめんね禰豆子ちゃん。竈門。わたしの自己満足に付き合わせてしまって。
心の中で竈門達に謝罪して、私は布団についた。

師範、すみません。これは立派な隊立違反です。
けれど私にあの子は斬れません。

翌朝目を覚ますと、3人はまだ寝ていて、起こさないように気配を殺す。
ずっとお面をつけていたが、猪をかぶってる奴がいるぐらいだ。変なやつ。くらいにしか思われてないだろう。
別に顔を見られてもいい、し女だとバレてもいい。
だがこれだけ引っ張っておいて普通の女でした。となった時の3人の反応を考えると…。ここまできたのなら、できれば永遠にばれたくない。

寝る時は解いていたサラシを巻き直し、家の人に挨拶をして先に屋敷に向かう。
御武運を。と切り火をしてくれたので再度頭を下げ、師範と一緒に住んでいる屋敷へ向かった。


屋敷に戻ってからは、師範と顔を合わせる事がなかった。
そのことに心底ホッとした。
鬼である禰豆子ちゃんを連れた竈門を見逃した私は、いま師範に合わす顔がない。
屋敷に戻ったと言ってもすぐに任務が入り、出たり入ったりの繰り返しだ。
あれから誰とも顔を会わさずに済んでいる。

禰豆子ちゃん達は大丈夫だろうか。
そろそろ野郎どもの骨折も治るはずだ。
鬼殺隊の本拠地に行くのか?それとも任務か?
禰豆子ちゃんを連れている竈門は、本拠地に行くとどうなるのか。
その時自分は、どうするのか。
問題は尽きない。
 

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