海底の月 | ナノ
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▼ 君が憎い

「あ、草摩くん。おかえりなさいです。」
「ごめんね、待たせちゃった?」

帰ろうか。そう告げれば、はいと笑う本田さんに、先程までざわついていた胸が落ち着いていくのを感じた。

ざわついていた理由は明確だ。
ミョウジナマエ
先週クラスに転校してきた生徒。
誰と話しをするでもなく過ごす姿は、少し浮いていた。
少し前に転校してきた夾とは違って、誰も彼に話しかけるものはいなかった。
拒絶、を、していると思う。目が、表情が、雰囲気が。
自分に関わるな。そう言っているような気がした。

数時間前、花島さんがミョウジさんを誘おうかしら、といったときは正直かなり驚いた。
いいですね!じゃあさっそくお声掛けしてきますです!と嬉しそうにかけていった本田さんを、止める間もなくあれよあれよと始まる大貧民。

正直、関わってみてすこし拍子抜けした。
普通の高校生だ、すこし流されやすくて、花島さん達にからかわれて怒る姿は、あいつ(夾)と同じ種類の人間にさえ思えた。
いままでのは自分の考え過ぎだったのかもしれない。
そう、思ったのだが。


先ほど、すれ違ったあの一瞬。
氷のように、冷たい目。
きっと彼は、俺のことが“嫌い”いや、あれはそんな感情だろうか。
あれは、あれはまるで…

「おーい、帰るんだろ。」
魚谷さんの言葉にはっと我に返り、慌ててかばんを背に担ぐ。
「帰りましょう」と笑う本田さんをみて、どうでもいいかと肩の力を抜く。

この時の俺は知らなかった。彼が慊人の所有物だなんて。
彼が、自分に対してどういう感情をもっているかなんて。
その、理由なんて。


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