海底の月 | ナノ
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▼ あらあら可愛らしい事

「まっさか全敗とはな〜」
「仕方ないだろうルールがわからないんだから…。」

負けた人間が掃除当番を変わるなんて聞いていない。
後ろで馬鹿にしてくる魚谷さんの言葉を背に、
僕は箒を動かす。
生徒が帰った教室はがらんとしていて、本田透と魚谷ありさ、そして花島咲がそんな僕の姿を眺めながら楽しそうにお喋りをしている。草摩夾はさっさと帰り、草摩由希は担任に呼ばれてどこかへ。
どうせならこの三人もさっさと帰ってほしいものだ。

「それにしても…ルールがわからないなら言えばいいのに…。」
「君たちの展開の速さについて行けなかったんだよ。」
「あら…それを人は流されたと言うのよ。」

花島さんの言葉にうなだれる。
流された。その言葉に頭痛。いけない、僕の役割を忘れてはいけない。

「あのさ花島さ…」
もう流されないぞ。もう関わらない。そういってやるつもりだったのに
振り返った瞬間、口に何かを突っ込まれた。

「んぐっ」

口に広がる、甘い味
あ、美味しい…。
「あらあら可愛らしい事。」
その言葉で我に返り、口に入れられたシナモンロールを慌てて飲み込む。

「…っ掃除は終わった!僕は帰る。」
「あらもう帰るの…?じゃあまた明日ナマエ君」

突然の名前呼びにぎょっとするも、これ以上流されてはいけないと返事をする事なく教室を後にした。

廊下で草摩由希とすれ違った。僕と入れ替わりで教室に向かっている様子だった。
草摩由希。慊人の、お気にいり。
なんでこんな男が慊人のお気に入りかなんて知らない。
すれ違いざま、視線が合った気がするが、声をかけるでもなくお互いがお互いを避けた。

気に入らない。慊人に気に入られている草摩由希が、気に入らない。

 

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