海底の月 | ナノ
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今日は文化祭当日。
準備の為少し早めに家を出よう。そう、思ったその時。
静かに、僕の部屋の扉が開かれる。
訪問者はだれかなんてわかりきっている。

「おはよう、慊人。」
この扉を開けるのは慊人だけだ。ほかの人は開けない。
開けないどころか、この慊人の部屋の近くにある物置に長い事住んでいるが、僕の存在を知らない人がほとんどだ。

「今日は、ここから動くな。」
たったその一言だけ伝え、慊人はすぐにその扉を閉める。
「…了解。」
静かすぎる部屋に、僕の小さな声が響いた。
なんてことない、慊人の望みがすべてで、その為ならなんだってする。
なのに、少しだけ、残念だと思っている自分自身に驚いた。




「ミョウジくん、大丈夫でしょうか。」
草摩由希の捨て身の宣伝効果で大好評なオニギリ亭。
オニギリを握りながら、本田透はつぶやいた。担任からミョウジナマエが体調不良で欠席だと伝えられたのは、今朝の事だった。
彼が考案したアニマルオニギリもなかなかの好評で、どんどん追加で握っている。
海苔で作ったひげを張る魚谷は、タイミングの悪いやつだなーと言葉を投げる。

その数分後、草摩の二名がこの教室に足を運ぶ。
慊人はそれを知っていたからこそナマエをあの部屋に留まらせたことを知っているのは、ナマエの存在を知っている慊人と、草摩はとりのみ。


月に手を伸ばした少女は、月の兎に、まだ出会わない。


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