「はい、ボクの勝ち」
「あ…またわたしの負けか、これで8勝2敗1引き分け」
残念そうに言うとトウコは持っていた手札をテーブルに投げ出す。自分の持っているカードも渡すと、新たなゲームを始めるためカードをかき集め手際よくシャッフルし始める。
「あれ、1回ドローしたっけ」
ふと疑問に思い聞いてみる。
「ほら、前に観覧車に乗るか乗らないかを賭けてポーカーをした時。わたしが優勢だったけどあまりにも君さ、必死だったじゃないか。熱意に負けて引き分けにした」
「できればそれ今すぐ記憶から抹消してほしい…」
ふと見上げた観覧車の窓にキミと誰かが楽しそうに映っていたのが何故か気に入らなくて、つい躍起になった。ただそれだけだ。理由はあまり深く考えないようにしてる。
「観覧車にさ、高所恐怖症の人と特訓で毎日乗るんだけど…見てるこっちがハラハラするよあれ。……君も一緒に乗る?」
「遠慮しとくよ」
「スリル満点だよ」
「絶対嫌だ」
くすくすと笑う自由気ままで気まぐれな彼女はいくら捕まえようとしても風のように自分の手をすり抜ける。
いつからか始めたこのカードゲームだってそうだ。偶然会ったボクに対して何を言うかと思ったら唐突に「ゲームしよう」と意気揚々と切り出した。ボクはその時本当に偶然だったので何と言おうか迷っていたというのに。呆気にとられて返事もしないまま押し流されてしまった。彼女の思考回路を読み取ることはとても難しい。こうやってプラズマ団のこととは関係なしにキミと幾度となく会ってゲームに興じてる自分の行動もまた理解不能だ。
「大体何でカードなんだい?」
「え、ポケモン勝負は嫌なんでしょう?カードなら初心者でも楽しめるかなって。スポーツ勝負とかの方がよかった?」
「いやカードでいいけどさ」
なるべくならトモダチを傷つけたくはない。だから流されるままにのったものの、こんなに強いなんて聞いてない。正直言ってポーカー、ブラックジャック…トランプゲームのやり方は知ってるけど誰かとやったのなんて初めて。初心者も同然だ。
「強すぎだよキミ。少しは手加減してくれないかな」
「これでもわたしの方は十分余裕ないんだけどな〜チェレンやベルとやった時だって勝ちをとられたことなかったのに。む」
「それはどうも。2勝8敗1引き分けたところで自慢にもならないんだけど。ポケモン勝負でも負け続きなのに」
「すねないすねない。ほら、じゃあ今度は神経衰弱をしよう。これなら公平でしょ」
トントン、とテーブルで整えたカードをテーブル一面に丁寧に並べていく。何も言わずただじっとその様子を眺めていると、こちらの視線に気付いたのかふと顔を上げ急に距離を詰めて覗き込んできた。
「何だい?」
若干仰け反りながらも目を逸らすわけにはいかず、真正面から見据える。向こうも怯まず見つめ返してくる。鼻と鼻がぶつかりそうなほど近い距離だ。すると突然ニッと笑い、頭をくしゃくしゃ、とやや乱暴に撫でられた。意味が分からず唖然としていると、
「さっき勝ったご褒美。そういえば何か賭ければよかったかな」
そう言って少し撫でる力を和らげ、今度はボクの帽子を取ってから撫で始めた。こうなった理由はよく分からないが撫でる手つきはとても優しく、心地よい。
「…子供扱いを受けてるみたいだ」
不可解ものが増えていく。
彼女が触れるたびに自分の中の理解不能な感情を持て余すほど増えていく気がする。素直に認めることができない偏屈な口が思わず愚痴をこぼした。
「え?嫌だった?撫でてほしそうだな〜って勝手になでちゃった」
「?撫でてほしそう?…ボクが?」
「?うん、わたし、ポケモンの声は聞こえないけど、君の顔を見れば何が言いたいか何をしてほしいのか、ほんのちょっとだけ分かるかな。ちょっとだけね」
少し前にもこんなことがあった。ただ二人で街を移動してただけだったのに突然彼女が「ほら、」と右手を差し出してきた。何故かと問うと「手、寒いかなって」と言う。
キミはボクですら分からないものを分かるというのか。
「キミは……ボクが何を言いたいのか分かると言ったね。ならばキミはボクの夢や思想に対して理解を示してはくれないのかい?」
「うん…そうだね、理解はできるよ。君の理想は理解できる。
でも、"共感"はできない」
やんわりと、だがきっぱりとトウコは告げた。それが対立しあうようになるとしてもだ。
「理解はできても共感はできない。わたしは君を盲信しない。こんな答えじゃ納得できないかな?」
「いや…それで、いい。それで十分だ」
ふ、と笑うと彼女も切なげに小さく笑い返した。
今は、これでいい。
キミはボクを誰よりも理解しようとしてくれている。今はそれだけでいい。それに今は袂を分かつともきっとまた出会う。ボクは目指し、彼女はそれを追ってくるだろう。
ボクがキミに膝を折るか、
キミの心をボクが砕くか、
どちらが先か、未来は不確定で答えは盤面を進めないと見えないのだから。
「さて…トウコ、ゲームを再開しようか」
それまでは今一度の邂逅を。
(自分のことですら分からないボクがキミを理解できる日が来るだろうか)
101111.
「N×W」企画様に提出。
マイペーストウコさんといじいじ悩んでるNを書きたくて自重しなかったらこうなった。もはや別人どころかお題に沿えてないかもしれない。参加させていただいてありがとうございました!
※追記
一度間違って全てデータとんだため、書き直してます。色々変更してますが申し訳ない。