「仕事したくない」
毎日の口癖と化したこの言葉も今となっては誰にも聞いてもらえなくなっていた。頑張ろうくらい言ってくれたっていいじゃないか。人間は冷たいと思った。
「私はずっと寝ていたい。誰からも邪魔されることなく、自分の好きなときに起き、好きなときに寝る。これこそが至高」
「ああ仕事したくない。パンダになりたい。パンダのようになにもしなくても愛されたかった」
「パンダのように」が正解かもしれない。パンダのように愛されて一生を終えたかった。こんな人生になるなんて中学の文集で将来の夢、なにもないとかいた僕は知っていたのだろうか。知っていたら怖い。超能力少年か。
「パンダってそんなにいいかな。結局飼い慣らされてるのに」
彼女はいきなり僕の意見を否定した。パンダほど恵まれた動物はいないと思っているなんて言えそうにない。
「それでも、パンダは自由だから、うらやましい」
「どこが自由?自分の意思も伝えられないし狭苦しい檻の中なんて考えられないけどね」
真剣な眼差し、口調。僕はなにも言えずに考えるふりをした。あー、かっこわるい。
「パンダになったらあんたの好きな逃亡だってできなくなるよ」
「……好きで逃亡してるんじゃない」
「ああそう、じゃああんた今も全く自由じゃないね。可哀想に。それならなにもしなくても食べていけて可愛がられるパンダの方がマシか」
少し馬鹿にするように、いや実際僕を馬鹿にして言った。彼女は僕のたったひとつの夢を躊躇なく笑う。それでも僕は誰かに伝えたくて呟く。
「パンダになりたい」

パンダになりたい。なにもしなくても食べていけるパンダに、可愛い可愛いと大事にされるパンダに、ずっとなりたかった。だけどラッコはどう頑張っても、素敵な魔法をかけても強く念じてもやっぱりラッコだった。貝をもってみせることしかできなかったラッコはとなりにいる人に大好きとたった三文字すらいえない。しかし違った。今までのは全部夢で、僕は本当はパンダだったのだ!君をかっこよく抱きしめて三文字を言ってみせた。ぱん、君が、割れた。
 目が覚めた。やっぱり僕はできそこないのラッコでラッコはラッコのままだった。