「ぼ、僕は、このままでいいのだろうか」
ガリガリガリガリ、静かな空間に紙を破りそうなほど強そうな筆圧の音と、好きな人が吉田氏ぃぃと嘆く声。どうしていつも辛そうに漫画かいてるのかな、平丸さんは。
「僕は、い、今まで全然女性との絡みがなくて、一度くらい、モテても、バチは当たらない」
「…はあ」
「だから、ちょっと頑張ろう、と、」
何を?興味本意で聞いてみる。平丸さんははぁ、はぁ息をしている。この人いつも顔色悪いなぁ。いつか、倒れちゃったらどうしよう。
「は、はやく吉田氏から休載をもらって、かっこよく、外を歩きます…」
「だ、だめです!」
「なにぃ!?ま、まさか名前さんも吉田氏の使徒だったのかぁぁぁぁ」
うわぁぁもう人を信じれないぃぃぃと叫んで泣きながら紙をビリビリに破く。あ、原稿…。
「ち、違います。そっちじゃないです」
「えっ」
「平丸さんがモテちゃったら困ります!わたし、」
「…なぜ、」
「平丸さんが、好き、で、」
ぱぁぁぁ、平丸さんの周りにお花が咲く。分かりやすい人なんだ。というかこれは、期待していいのかな…。
「えへ……えっ、あ、へ、返事、ですね」
気まずい空気が流れる。こういう空気は苦手だ。目を合わせられない。
平丸さんが言いにくそうにごにょごにょする。顔赤いですよ、平丸さん。
「えっと、名前さん可愛いから、ずっと、彼氏いるんだろうなーとか思ってて、あの、だから」
えーと、つまり、その、平丸さんが目をぎゅう、と瞑る。
「よ、よろしくお願いします」
あ、平丸さんのお花が私にも伝染した。