ゲーチス様は一体なにを考えているのか、分からない人でございました。心のなかでは真っ黒などろどろのなにかが渦巻いているのでありましょうか。それとも、すでに真っ黒ななにかを見せているのでしょうか?…おそらく、わたしには到底わかりえないことです。
「ゲーチス様、お飲み物、お持ちいたしました」 「そこにおいておいてください」 これがわたしとゲーチス様のいつものやりとりです。これ以上も、これ以下もございません。ですが、今日のわたしはどうかしていたようでございまして、聞いてしまったのです。 「…ゲーチス様は、なにをお考えになられているのか、よく分からない方でございます」 「……どうしたのです」 言葉こそ荒々しくはありませんが、ゲーチス様は眉間にしわをよせました。いけません。今すぐ謝罪をしなければ。ああ、でももう手遅れのようでございます。 「ポケモンを解放する。その裏になにかあるのではと、思うのです」 「どういうことです」 「そのままでございます。ポケモンを解放するという目的の裏側には、なにかゲーチス様の違う目的が隠されているのではございませんか」 ゲーチス様は変わらず眉間にしわを寄せておられます。しかし、どうしたことか、ゲーチス様は高々と笑いはじめたのです。 「…ふっ、あはははははは!面白いことを言いますね!!面白い。実に面白く、滑稽です。私はポケモンの解放以外になにもたくらんでいませんよ」 「…そうでございますか。失礼しました」 いいえ、いいのですとゲーチス様はまだ笑っておられます。ゲーチス様はとても優しい方でございます。ポケモンの解放!素晴らしい考えでございますね、本当に。 がちゃり、扉を閉めて、笑いをこらえながら、わたしはその場をあとにしました。 わたしがポケモンの解放の裏になにかあるのではと言ったとき、ゲーチス様がぎりぎりと唇を噛み締めていたのを、わたしは見逃していませんよ、ゲーチス様。何年貴方様の側にいたと思っていらっしゃるのです? |